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昇格プレーオフとリーグ戦の試合傾向の違い
2024-11-28 14:04 RSS

明治安田J2リーグ、J3リーグともに全試合を消化。残すは昇格プレーオフや入れ替え戦のみとなった。J1への昇格プレーオフは参入プレーオフも含め長く開催されているが、J3からJ2昇格へのプレーオフは初開催となる。ここで、過去の昇格(参入)プレーオフの試合データをリーグ戦と比較してどのような違いがあるかをまとめてみよう。


※下記に紹介するデータの差異は、各年度のJ1昇格(参入)プレーオフとその年度のJ2リーグ戦の差異を比較する形とする。比率以外は1試合1チーム平均の値。

※昇格プレーオフの場合、上位チームは引き分けでも次のラウンドに進めるため、その場合でも勝者として表現する。


時間の奪い合い


昇格をかけたプレーオフはクラブチームの未来や出場する選手自身のキャリアにも影響する重要な試合であり、誰もが最後まで勝ち抜くことを望んだ試合となる。こういった試合で起こるのが「時間」の奪い合いだ。この「時間」とはボール保持により時間を稼ぐというケースもあるが、アウトプレーの時間の使い方も含めたものだ。よってアクチュアルプレーイングタイムがリーグ戦よりも短くなりやすい。昔から「決勝はつまらない試合になる」といったような話をよく耳にするが、その理由も時間の使い方が影響している(とはいえ近年の決勝はサッカーの変化の影響もあり面白い試合が多いように思う)。


試合においてアウトプレーが長くなる原因は、ボールが外に出る数、ファウルやオフサイドの数、それらのタイミングからインプレーまでの時間が影響するが、その中で直接フリーキックの数、つまりファウルの数がプレーオフの場合多くなる傾向にあった。



ファウルが多くなる理由は様々で当然精神面での影響もあるが、試合展開から1つ読み解くのであればこぼれ球の多さにある。プレーオフはクリアやブロックといった相手のプレーの遮断が増え、これによりこぼれ球奪取の数が増加している。こぼれ球を拾えるかどうかは攻撃継続と攻撃回数の増加にも関わるため重要だ。



得点の傾向


続いて試合結果に関わる得点(失点)についてのデータだが、こちらについては改めてデータで示すまでもなくサッカーファンにはすでに印象として馴染んでいる傾向と言っていいかもしれない。通常セットプレーからの得点は3割ほどだが、プレーオフでは4~5割まで上昇する。得点に関わるセットプレーはコーナーキック、フリーキック、ロングスローなどが該当するが、こういったシチュエーションの設計を攻守ともに準備するのは必然だ。

※セットプレーからの得点 = セットプレーから10秒以内に得点したもの


これまでのJ1昇格(参入)プレーオフでは逆転勝利試合が1試合しかないという傾向があるが、この要因はプレーオフ特有のレギュレーションにもある。上位チーム側は先制されても追い付いて引き分けであれば勝ち抜けるため、逆転に至るまでのリスクを背負う必要がないためだ。


もう一つの理由は得点の時間帯だ。プレーオフの場合、リーグ戦に比べると試合開始15分に得点が入りづらく、試合終盤に偏る傾向にある。先制に対し逆転できるかどうかは試合の残り時間に影響されるため、終盤にスコアが動いた場合ひっくり返すのは難しい。とはいえ当然ながらタイムアップの笛が鳴るまで諦める必要は全くない。何かを起こそうという意志がなければ何も起きないのだ。



攻撃スタイルの違い


セットプレー以外の保持攻撃について、チームスタイル指標にあるショートカウンター、ロングカウンター、敵陣ポゼッション、自陣ポゼッションの数の差異を見ると、プレーオフの場合はポゼッションよりカウンター傾向が強まっている。縦に早く攻める意識の強さの他に、つなぐよりセーフティなクリアを選択する傾向、守備側のボールホルダーへの意識の強さなどが影響しているのだろう。特に自陣ポゼッションはすべてのシーズンでプレーオフ側が減少しており、自陣でのビルドアップに時間をかけるケースが少ないことが分かる。


上記の4スタイルのうち、鍵を握る可能性がある攻撃としてロングカウンターを取り上げたい。前述の通りセットプレーがスコアを動かす上で重要な攻撃となるためすでにどのチームも準備しているだろう。セットプレーでは多くの選手が相手ゴール付近に集まるため、攻撃の終わり方次第ではその後に相手のロングカウンターが発生することになる。現在のサッカーは守備が前がかりになり、且つ後方で攻撃権を得た場合もポゼッションが主流となったためロングカウンターの機会は減っており、その試行回数はプレーオフが始まった2012年の6割ほどとなっているが、ロングカウンターの得点率に大きな変化はない。ショートカウンターとロングカウンターはリーグ戦ではほぼ同じ得点率となっているが、過去の昇格(参入)プレーオフではロングカウンターの方が高い数値となっており、過去にはリーグ戦ではロングカウンターからの得点が少なかったチームでもプレーオフで同ケースから得点を奪ったチームが複数ある。相手の得意分野に対してどう対応するかという分析はすでに行われていると思うが、選択肢の少ない攻撃にも目を光らせておく必要はあるかもしれない。


今回のデータは試合数が大きく異なるJ2リーグと昇格プレーオフを比較しているため、データ分析としては不適当な面もあるが、リーグ戦とは異なるケースが起こり得るという意味では認識しておくべき数値だ。特に今季のJ1昇格プレーオフはリーグ戦が終わってから時間が経っているため、これまでにやっていないことを仕込むことができる。あらゆる準備や想定していないことへの対応力も昇格を手にするために必要だ。


八反地 勇



2024-11-28 14:04 RSS
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