明治安田J1リーグは17節を終え、消化試合数に差はあるが多くのチームがあと2試合でシーズンの半分を消化する時期となった。ここで過去にも紹介したようなトラッキングの選手スタッツを紹介しよう。
今回紹介するのは以下のデータだ。
- (1) 攻撃切替時の20km/h以上のランニング
- (2) 裏抜け
- (3) ボディコンタクトを伴うプレス
- (4) センターバックのマーキング
(1) 攻撃切替時の20km/h以上のランニング
リーグ公式サイトや中継等では25km/h以上のスプリントがお馴染みだが、日本サッカー界の分析としては20km/h以上の走行を1つの基準としており、Jリーグのページ「サッカーにおけるインテンシティとは?」でも紹介されている。その20km/h以上のランから、インプレーでの攻撃切替後5秒未満に発生したランを抽出。その回数のトップ4が下図の選手たちとなった。攻撃の切り替わりは自チームから相手チーム、相手チームから自チームへの2種類となるが、今回は合算値としている。
1位となった福田心之助(京都)はスプリントの合計数でも現時点でトップとなっており、今季のランニングデータの主役だ。自身の総移動距離のうち20km/h以上の走行距離割合でも先発6試合以上の選手の中でトップとなる13.4%を記録している。上図ではサイドの選手が多いが、唯一中盤の山口蛍(神戸)が4位に。またこのランクには入っていないが、柏の細谷真大、マテウスサヴィオも彼らに近い数値となっており、アタッカーでも上位になるケースがある。根本的に回数のランキングは試合に出場していることと、今回のデータの場合、攻撃の切り替わりが激しいチームの方が上位に位置しやすいという前提もあるため、評価には直結しないデータだが、少なくとも負荷がかかっているのは間違いない。
(2) 裏抜け
トラッキングスタッツを紹介する際にはお馴染みとなった裏抜け回数のトップ4は下図の選手となった。(裏抜けの定義についてはこちらの記事「トラッキングから生まれる新データ 1. 裏抜け」を参照)
Jリーグ屈指のスプリンターである永井謙佑(名古屋)も気が付けば35歳になったが、今季現時点までのトップスピードは年齢と同じ35.0km/h で、各試合で見ても17試合中16試合で33km/h以上のトップスピードを記録しており、名古屋の攻撃を足で支えている。2位のチアゴサンタナ(浦和)は回数が多いながらも他の選手に比べるとエリアが密集しており、中央を離れない点を意識していると見られる。
裏抜け回数上位30人について、保持時間に対する裏抜けの頻度(出場時のチームのボール保持時間÷回数)と、5秒以内にボールを受けた割合(レシーブ率)をまとめた。
昨季も同様のデータを紹介しているが、裏抜け頻度でピエロスソティリウ(広島)が最上位にいるのは昨季の開幕5試合と変わらない傾向になった。頻度が多い中では藤尾翔太(町田)のレシーブ率が高く、短時間で攻撃を完結できる町田を象徴するようなデータとなっている。昨季との比較でいうと、柏の細谷は昨季前半戦の時点では頻度=多、レシーブ率=低のグループだったが、今季は逆の傾向となり、より効果的な裏の取り方を意識しているようだ。
今回はレシーブ率に加え、裏抜け後に自分を含めた味方がシュートを放った割合のデータも紹介しよう。裏抜けの場合、ボールに触れずとも相手DFを引き寄せることでチャンスを演出できるため、自身がボールを受けることだけが評価になるとは限らない。こちらのデータでは東京Vの染野唯月が裏抜け頻度は低いものの味方シュート率において圧倒的に高い数値を示した。同チームの木村勇大も高めになっており、前者は半分以上、後者はほとんどが自分以外のシュートでこの数値を記録している。
(3) ボディコンタクトを伴うプレス
守備のデータからはまずボディコンタクトを伴うプレスのデータを紹介しよう。プレスの定義については「トラッキングから生まれる新データ 2. プレス及びプレッシング」にある通りだが、プレスにもある程度距離を詰めるだけの場合もあれば相手の懐に入り確実にボールを奪いに行くケースもある。今回はその後者のシチュエーションをまとめたものだ。該当するプレスの回数のトップ4は下図のようになった。
4人のうちサイドと中盤中央の選手が2人ずつランクインする結果となったが、こういったプレスの場合、ボランチだとサイドをカバーしにいくようなシチュエーションでカウントされることが図の矢印からも分かるだろう。知念慶(鹿島)は今季FWからコンバートされた選手だが、これに限らず多くのデータにおいてコンバート直後とは思えない良い数値を残している。
同プレス数上位30人について、相手の保持時間に対するボディコンタクトを伴うプレスの頻度と、その際の守備成功率をグラフで表した。回数のトップだった中野就斗(広島)は守備成功率もこの中で一番高いという驚異的なデータとなっている。頻度のトップである福岡の重見柾斗は少ない出場時間でありながら回数で上位にいる一方、プレス後のファウルが多い選手でもあり、その点が守備成功率に表れている。もちろん状況によってはファウルが最良の手段である場合もあるが、できれば自チームの攻撃につなげたいところだ。ほか昇格後も好調な町田から平河悠と林幸多郎が守備成功率の高いグループにおり、球際の強さを見せている。
(4) センターバックのマーキング
最後に先日のコラム「トラッキングから生まれる新データ 5.マーキング」でも紹介したマーキングのデータを紹介しよう。今回はセンターバックのオープンプレーにおけるマーキング時間上位30人を対象とした。
マーキング率は相手の保持時間(且つマーキング対象時間)に対するマーキングの時間比率を表したもので、そのマーキングの相手にマーキング中もしくはその直後にボールを触られた場合が被タッチとなる。上図でいうと植田直通(鹿島)はこの中で最もマーキング相手にボールを触らせない傾向にあると言える。
プレーされたとしても奪ってしまえば問題はないため、被タッチ時の守備成功率も併せてチェックしておきたい。やはり以前のマーキング記事でも名前が出てきたアレクサンダーショルツ、マリウスホイブラーテン(ともに浦和)、マテウストゥーレル(神戸)は今も高い守備成功率となっており、この集団にキムミンテ(湘南)も加わっている。ここから数%開いたところに日本人選手が並ぶ格好となっているが、日本代表の強化という面でいえば誰か上位グループに加わりたいところだ。 このグラフだと福岡の選手が守備成功率の低い位置に揃っているのが気になるが、マーキング率自体そこまで高くなく被タッチ率も低めなので大きな問題にはなっていない。元々マーキングを軸にボールを奪うチームではないことも影響しているだろう。攻撃のデータ以上に守備のデータはチームの設計にも影響されるので解釈が難しいところである。
もうすでに各地で気温が上がっているがこれから本格的な夏に突入し運動量にも大きく影響する。今回名前が挙がった選手たちのプレーやスタッツに何らかの変化が起きるのか注視したい。
八反地 勇