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トラッキングから生まれる新データ 5.マーキング
2024-05-08 10:00 RSS

トラッキングから生まれる新しいデータとしてこれまで「裏抜け」「プレス(プレッシング)」「加減速・方向転換」「守備ブロック」を紹介したが、今回は「マーキング」だ。ボール保持側(攻撃側)の選手に対して相手の1人(もしくは2人以上)がピッタリ付く状況は、サッカーのような流れのある競技においては昔から存在するが、トラッキングデータの取得が始まるまではそういった状況をデータ化することはなかった。マーキングのデータは以前の記事「加減速・方向転換」でも一部利用しており、またJリーグが発表したJ STATSレポート2023でも掲載されているが、本記事にて改めてデータの定義と全体の傾向、そして直近シーズンの選手データを紹介しよう。


マーキングの定義と全体傾向

※アニメーション画像はマーキングの一例。青がボール保持チームで左から右へ攻撃。


マーキングの定義として、対戦するAチームの選手とBチームの選手の距離をトラッキングデータから時間経過とともに算出した上で、連続して2m未満で近接している状態が3秒以上続いた場合を一つのマーキングとした(一瞬外れただけであれば1回として持続)。攻撃側の選手がわざと守備選手に近付くケースや、双方とも意識していないケースも存在するだろうが、このデータに関わらず選手の意図を組み込むのは難しいため、結果的にそういう状況であった場合を取得している。


ペナルティエリアに選手が密集するようなセットプレー時におけるマーキングと、その他通常のプレーの流れによるマーキングでは状況が大きく異なるため、大分類としてこの2状況を分割。後者の状況の場合、ボールホルダーより前方(相手ゴール側)のマーキングを対象としている。


以降、今回の記事では後者のオープンプレーをメインとしたデータを取り扱う。2024年のデータは4月末時点のため、年度比較においては暫定的な数値として留意して頂きたい。


オープンプレーの場合、選手をマークしていると聞いて最も思い浮かべるのはDFが相手FWをマークしている状況だろう。データ対象保持時間に対してマーキングの時間比率を「マーキング率」と称してポジション毎に計算したところ、当然ながら守備側はセンターバック(CB)、攻撃側はFWが最も高くなった。


上表のシーズン変化を見てみると、守備側の後方のマーキング率は僅かに低下して高いポジションの選手が上昇。攻撃側も1トップFWの被マーキング率は減少している。これは守備ブロックの記事でも伝えた通り、ビルドアップの変化に伴い守備ブロックが前がかりとなった点が関係している。しかし、今季はシーズン序盤までのデータではあるが守備側のCBと攻撃側のFWが上昇傾向にあり、変化が起きるシーズンとなる可能性がある。


延べ時間から平均化すると上表のようになるが、2019年以降において、試合別で特定選手間のマーキング時間が長かった組み合わせをまとめると下表のようになった。


最も長いケースで約12分ピッタリ付いていたことになる。そしてトップ10のうちの多くは守備側に荒木隼人が名を連ねており、11位から20位も半分は荒木だ。いかに彼がハードマーカーであるかが分かるが、ランキングの試合日からも分かるように多くは2019,2020年に記録したものであり近年の試合が少ない。一つ上の表で紹介した通り、こういったFWへの密着マークの時間は減っているのだ。



マーキング中は動きが少ない選手もいれば多い選手もいる。もちろんボールがどこにあるかにも影響されるが、攻撃側はマークを外すために動き、守備側は外されないために動くという形になる。マーキング中の加減速(2.5m/ss,-2.5m/ss)や方向転換(60度以上)が生まれる割合を見ると、2020年から2021年に急上昇し、昨季は微減している。トラッキングデータ取得時と比べると試合での総移動距離は増加傾向にあるため全体的には緩やかに増えていると思われるが、その中で2020年は降格枠が0、23年は降格枠が1だったため、これらが影響している可能性がある。



上の図だと2024年は増えているように見えるが、これは試合の消化期間が影響している。こういったフィジカルデータは夏場に落ちるため、今後2024年のデータも過去に近い数値に収まると推測される。ちなみにマーキング率自体は夏場に落ちることはなかったが、マーキング時のボールタッチ率は落ちる傾向にあった。これも動きの量の低下が影響しているのかもしれない。




マーキングのチームデータ


2019年以降のチーム別の守備側のマーキング率データを見てみよう。DF,MFの中央域を担当するポジション毎にデータを算出した。


19年から21年にかけて広島のCBのマーキング率は際立って高かったがスキッベ監督就任後に守備が前傾化したため落ち着いた数値に。20年以降、中盤のマーキング率が高い札幌は22年からCBの方も上がり、いわゆるマンツーマンぶりがデータでも表れている。一方でこのマーキング率と失点に相関がないことはこの2チームの昨季の失点数を見れば分かるだろう。あくまでこれは守備のスタイルのデータであり、低いからと言って悪いデータはない。昇格チームのCBのマーキング率は全体的に高めを記録することが多いようで今季は3チームとも高く、特に東京Vは暫定ながら表の中では最も高い数値となった。



マーキングの選手データ


現在のトラッキングデータやプレーのデータではマーキングを評価するには不十分で、1つの指標だけで良いマーク、悪いマークを数値化するのは困難だ。よって今回は、「マーク中にマークしている選手がボールタッチを行ったか(マークタッチ率)」「触られたがマーク後5秒未満で攻撃権を獲得したか(守備成功率)」の2つからマーキング選手のデータを見てみよう。選手データではあるが、味方の貢献も含まれているため、チームデータが影響しているという点も頭の片隅に入れておいて頂きたい。対象選手はマーキング時間トップ20の選手で、表の並び順はマーキング時間順となる。


2023年のCBの中では岡村大八のマーキング意識の高さが際立つ。相手選手がボールに触れる機会は多いが、触られても2回に1回は直後にボールを回収しており、失点が多いチームではあったが最後の砦として奮闘していた。他の選手の中では、相手にボールを触らせず、また触られた時の守備成功率も高い数値となっているアレクサンダーショルツが目立つ。マリウスホイブラーテンも良い数値を記録しており、改めて両者が昨季の浦和のリーグ最少失点に貢献していたことが分かる。


2024年の4月末時点のデータではマテウストゥーレルが被タッチ率が高めの中でも、高い守備成功率を記録している。昨季の表には出場時間の都合上名前が載らなかったが今季は固定メンバーの一人だ。一時負傷離脱したためショルツの名前はないが、ホイブラーテンは引き続き良い数値を残している。昇格組の東京V、町田の選手も良いデータを示しており、特に林尚輝、谷口栄斗は相手に触らせないマーキングをしていることが分かる。



続いて中央後方寄りのMFの選手を対象にまとめた。チームデータで広島の中盤のマーキング率が高かったが、その数値に大きな影響を及ぼしたのが川村拓夢だろう。特に2023年の方は一覧の選手中最もマーキング率が高い中、触られた後の守備成功率も高い数値となった。今季のチームデータで横浜FMの中盤のマーキング率が上昇していたが、このランキングでは山根陸が一際目立つマーキング率となっている。



続いてマークされる側のデータを見てみよう。マーキングされている状態でのボールタッチ率と、タッチした場合にチームの攻撃が継続されたかどうかのデータを並べた。即シュートを放って攻撃が終わった場合もこの攻撃継続率に含めている。さらに被マーキング時の加減速、方向転換のデータも併記した。



2023年のFWの中で被マーキング率が最も高いのはナッシムベンカリファだが、その状況下でもボールタッチ率は最も高い。空中戦のターゲットとなる点に加え、裏を取る動きを積極的に行っているところが影響しているのだろう。他、特徴的な数値を残したのは宮代大聖だ。昨季はサイドと中央のポジションをこなしたが、このデータでは中央のポジションを担当した時のみのデータとしている。被マーキング時のボールタッチは少ないが、その状況下となった際の攻撃継続率は高い数値を残した。横浜FMのアンデルソンロペスは2023年と2024年のデータ時点において被マーキングの通算時間が最も長い選手だが、両シーズンとも高い攻撃継続率を出している。シンプルにトップへボールを送るチームではないためタッチ率は低めになるが、彼がボールを収めた後に攻撃のギアが上がるのは近年の横浜FMの象徴的なシーンだ。


加減速、方向転換の数値が高い選手は被マーキング中にスピード変化やターンを駆使して動き回っていると言え、大迫勇也らがそれに該当する。このデータの年度変化では山田新の数値の上昇ぶりが目立つが、これはビハインド時における途中出場が多い点も影響している。これらのデータも高ければ良いという世界ではないことはアンデルソンロペスのデータが示している。特に相手を背負って受ける状態でもプレーができる選手はこの辺りの数値を気にする必要はないだろう。



昨季高い得点力を見せた浅野雄也はボールタッチ率が低めの中でも攻撃継続率が高く、このデータでも目立つ存在となっている。被マーキング時の攻撃継続率で言うと山口蛍、脇坂泰斗といった昨季のベストイレブンの選手が上位となり、伊藤涼太郎移籍後にトップ下を務めた高木善朗もこれに続いている。中盤に関してはドリブルを積極的に仕掛ける選手は攻撃継続率が低めになってしまう傾向も見える。ここには名前がないが、ポジション上サイドながら中央でのプレーが多い家長昭博も被マーキング時のボールタッチ率50%の中で攻撃継続率71.95%という高い数値を残していることも記載しておく。


2024年ではG大阪の山田康太、坂本一彩が、少ないタッチ数ながら被マーキングの中でもボール保持の継続に貢献している。逆に昨季高い攻撃継続率を残していた脇坂の数値が落ちているのは気になるところだ。


動きのデータを見るとFWに比べて中盤の選手は加速より減速の方が多い傾向にある。これはFWに比べると足下でボールを受けに行く影響が大きく、どこで「止まる」動作を行うかも重要と言える。



文中で述べた通りマーキング時の駆け引きはまだまだデータに表せないものが多く評価も難しいが、こういった点も将来的には標準データの一つとして発展していくだろう。マーキング中にどういった動きを行っているか現地や中継で注目してみると新たな発見があるかもしれない。


八反地勇

2024-05-08 10:00 RSS
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