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2024年シーズンの開幕前に、掲載しているチームスタイル指標のうち、トラッキングデータを利用しているJ1リーグの内容をアップデート致しました。これまでトラッキングデータを利用した指標は、「攻撃→守備」「守備→攻撃」「コンパクトネス」「最終ライン」「ハイプレス」の5つでしたが、このアップデートにより「ラインブレイクラン」「ハイプレッシング」「ミドルプレッシング」「カウンタープレス」「ハイブロック」「ミドルブロック」「ローブロック」の7つとなります。チームスタイル指標は2017年より掲載していますが、2019年にサッカー界全体のボール保持方法が変わったのを皮切りに守備も変化し、旧指標ではスタイルを判別するには不足していたため今回の改修を行いました。
チームスタイル指標は下図のような一枚絵のように「指数(偏差値)」と「評価対象データの比率」を大きく扱っており、リンクがあるページはその先にて詳細なデータを見ることができます。指数は該当スタイルの発生頻度を表しています。評価対象の比率についてはプレーデータ系の場合シュート率を利用していますが、今回追加した指標では内容によって変えています。
新しい指標について順番に説明致します。
ラインブレイクラン
「ラインブレイクラン」と名付けていますが、過去の記事でもご紹介した「裏抜け」が主軸となる指標です。裏抜けはトラッキングデータより抽出しており、相手の陣形から最終ラインを導き出し、そのラインを越えるような14km/h以上のランを計測した場合を裏抜けとしています。詳細は下記の記事をご参照ください。
トラッキングから生まれる新データ 1. 裏抜け
https://www.football-lab.jp/column/entry/793
裏抜けの回数そのものはチームのボール保持時間に影響されますので、指数の基となるデータは頻度(裏抜け1回当たりのボール保持時間)から計算しています。評価対象となる比率は、裏抜けランの最中もしくは裏抜けラン終了5秒未満で、裏抜けの選手に関わらず味方がシュートを放った割合から算出しています。詳細ページ内にはゴール率も掲載していますので併せてご活用ください。
ハイ・ミドル プレッシング
プレッシングからは「ハイプレッシング」「ミドルプレッシング」の2つの指標を掲載しています。ハイとミドルの判定以外は同じ定義となりますので併せてご説明致します。
相手のボール保持者に対して一定以上のスピードで接近を検知した場合をプレスとして、これが連続で行われた場合をプレッシングとしています。ハイとミドルの判定はボールエリア(自陣か相手陣か)と相手の選手配置の陣形から計算しており、相手陣内にボールがある場合は、相手のDF-MFライン間より高い位置でプレスを行った場合をハイプレス、そのライン間とFW-MFライン間のプレスをミドルプレスとしていますが、自陣内の場合はハイプレスの判定はなく高い位置のプレスはミドルプレスとしています。そしてハイプレスから始まったプレッシングをハイプレッシングとし、ミドルプレスから始まった場合をミドルプレッシングとしました。詳細は下記の記事をご参照ください。
トラッキングから生まれる新データ 2. プレス及びプレッシング
https://www.football-lab.jp/column/entry/812
こちらのデータもどちらがどのようにボールを保持するかで回数が変わるデータとなりますので、相手のプレー位置からプレッシング試行率を計算しそれを指数としました。評価対象となる比率は、プレッシング後5秒未満に被シュートに至ることなく相手の攻撃が終わり、自チームが攻撃権を得た場合を計算した守備成功率を採用しています。詳細ページ内ではインプレーでボールを奪ったゲイン率や、逆に被シュートに至った割合、被シュートの成功率なども掲載しています。
カウンタープレス
プレスの定義については上記のプレッシングと同様ですが、プレス位置に関係なくボールロスト直後にプレスおよびプレッシングが試行されたシチュエーションを指標化しています。ただしボールロストの中でも、相手が一定時間確実にボールをキープできるキーパーがキャッチした場合や、後方にほぼ選手がいない状況でロストした場合などは除外しています。後者は、相手のペナルティエリアに選手が密集するセットプレーをロストした後のカウンターのようなケースが分かりやすいでしょう。こうなった場合、ボール保持選手に高速で接近することでプレスがカウントされ、従来のカウンタープレスとは少し意味が異なってしまうので除外しました。
指数は対象のロストに対してカウンタープレスが適用された比率とし、プレッシングと同様に守備成功率を評価対象としています。
ハイ・ミドル・ロー ブロック
最後はブロック(守備ブロック)の紹介です。ハイ、ミドル、ローの3種類となりますが、この判別も相手保持者の位置と守備陣形の位置次第ですので、併せて説明致します。こちらも以前の記事「トラッキングから生まれる新データ 4.守備ブロック(コンパクトネス)」にて紹介していますが、ローブロックについては一部定義調整を行いましたので変更しています。
守備ブロックは「相手がMFラインより相手ゴール側でプレー」「相手が守備ブロックより外側でプレー」の双方が続いた場合を、守備ブロックを形成した状態と定義しています。そして守備ブロックのFWラインの位置の高さからハイ、ミドル、ローブロックを判定しています。ローブロックについてはFWだけが前線に残り2ラインでブロックを形成するケースが多いため、上記の「守備ブロックの外側」の条件を変更し、ブロック内でも高い位置の場合は含めるようにしました。
守備ブロックは各試合に必ず存在するデータとなりますので、各指標の指数は対象の守備ブロック数÷全体の守備ブロック数から計算しました。守備ブロックは能動的にボールを奪いに行く動きが発生しているわけではないので、1つのデータで評価をするのは困難ですが、ひとまず現時点ではブロック形成後に相手がシュートに至ることなく攻撃を終わらせて自チームが攻撃権を得た場合としました。時間に関わらず判定していることから、こちらは攻撃獲得率としています。詳細ページ内には被シュート率、被シュート成功率に加え、守備ブロックの面積やラインの高さ、幅の距離なども掲載しています。
札幌と広島の事例を紹介
最後に2023年のJ1の新チームスタイル指標から札幌と広島について紹介します。
前がかりな守備にはどうしてもリスクが付きまといます。この2チームは守備成功率や攻撃獲得率といった評価系のデータで高い数値を残している一方で、わずかながらでも被シュートを放たれた際はその成功率が高くなっており、まさに前がかりな守備がハイリスクハイリターンであることを表した傾向となっています。サッカーは1点を奪い合う競技であるため、10回中9回はうまく行っても1回の失敗で負けてしまうことも少なくありません。そこがサッカーのデータ分析の難しい点であり、サッカーの面白いところと言えるでしょう。
そういった中でもこの両者は失点数が大きく異なり順位に影響しました。広島はプレッシング時の被シュート成功率は悪いものの、被シュート率は札幌より良く被シュートに至る前に回避できたことが分かります。またハイブロック、ミドルブロック時において札幌の被シュート成功率は20%を超えており、こちらも失点数増につながっています。
チームスタイル指標は各チームのページおよびリーグサマリーから閲覧することができます。
昨季優勝した神戸のチームスタイル (ハイプレッシング)
https://www.football-lab.jp/kobe/style?year=2023&s=66
リーグサマリー チームスタイル指標ミドルブロック
https://www.football-lab.jp/summary/team_style/j1?year=2023&data=82
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