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2022J1前半戦の被ハイプレッシング下におけるポゼッションデータ
前記事「2022J1前半戦のハイプレッシング(ハイプレス)データ 」にてハイプレッシングについてのサマリーを紹介したが、本記事では逆の視点から攻撃側のサマリーを紹介する。前記事同様にデータは16節までのもので、ハイプレッシングの定義、分析手法は昨年執筆した記事「トラッキングから生まれる新データ 2. プレス及びプレッシング」に合わせて行う。また、いくつかの定義説明については前記事と重複する点についてもご留意願いたい。
まずは全体のサマリーから紹介しよう。
被ハイプレッシングサマリー
データの定義について以下に要約する。
・トラッキングデータから「プレス」を検出し、グループ化したものを「プレッシング」とする。そのうちハイプレスから始まったプレッシングを「ハイプレッシング」とする。被ハイプレッシングの試合平均回数とは相手にハイプレッシングを受けた1試合当たりの平均回数となる
・プレッシングの最後のプレスから5秒未満で相手に攻撃権を与えなかった場合、「攻撃継続」とする。ボールアウトやファウルによって攻撃権を得た場合も含む
・プレッシングの最後のプレスから5秒未満の間にアタッキングサード(以下ATと表記)でプレーした場合、もしくはシュートを打った場合を「ATプレー」とする
被ハイプレッシングは主に自陣でのボール保持時に発生するものなので、自陣でボールを保持する傾向にあるチームは受ける数が増える。それらのチームはボール保持の設計ができているチームが多いので、そういった状況でも攻撃を継続できるケースが多い。よって被ハイプレッシングの試合平均数が多いほど、攻撃継続率も高くなる傾向にある。これは前回紹介した守備側の試合平均数と守備成功率とは異なる点だ。攻撃継続率が低いチームはATで相手が攻撃権を得ている点から、ロングボールで終わらせている可能性が考えられる。例えば、鹿島は攻撃継続率が低いが、被ハイプレッシング直後に自陣で相手に攻撃権を与えた比率は2位の鳥栖と変わらない。被ハイプレッシングが苦手ではあるものの、相手にショートカウンターを与えないよう最低限の回避はできていると言える。
前回のハイプレッシングの記事では守備成功率とDT被プレー率を併せて紹介したが、今回のATプレー率は少し考え方が異なってくる。被ハイプレッシングから早い時間でATへ到達したかどうかは、相手チームの陣形の乱れ具合、自チームの判断やスタイルによるため、必ずしも即ATへ運ぶ必要があるとは言えないからだ。よってこのデータは評価というよりスタイルとして見た方が良いだろう。13%を超えている広島、鳥栖、柏は、被ハイプレッシング時に素早く前線へ送る傾向にあるということになる。
続いて、被ハイプレッシング時の詳細データを見てみよう。
被ハイプレッシング時の詳細データ
データの定義について要約すると下記の通りとなる。一部のデータは「トラッキングから生まれる新データ 2. プレス及びプレッシング」で説明しているため、こちらも参照して頂きたい。
・保持者とドロネー辺でつながっている選手に対して、「3m未満に相手がいる」「相手が3m以上にいる場合に接近している」「パスコースを塞がれている」の3項目をデータAとし、いずれかの条件を満たしている比率を「データAのチェック率」とする
データAの事例
・FW、2列目中央の選手に対して、「3m未満に相手がいる」「相手が3m以上にいる場合に接近している」の2項目をデータBとし、いずれかの条件を満たしている比率を「データBのチェック率」とする
・10m以上30m未満のパススピード(メートル毎秒)
・ドリブルなどでボールキープをしながら相手のFW、MF、DFラインを突破した数。左側が総数で右側は被ハイプレッシング1回当たりの数
守備側のデータとは違い、今回のデータA、Bはチェック率が低い方が良いというデータになる。例えばAのチェック率が低いC大阪と浦和は、ボール保持者に近い選手が比較的余裕がある状況にいると言える。加えて今回は被ハイプレッシング時のパススピードやラインを突破したボールキープの数を掲載しているが、特に後者は攻撃継続率との相関が強めとなっている。簡単にいえばDFがボールを運ぶかどうかというデータであり、頻度としてはそう多くはないが、相手の守備陣形を崩す重要な選択肢と言える。
また表の右端に紹介しているバックパスは、GK以外で最も後方にいる選手のライン距離近辺に送ったパスとして定義しており、後方へのパスとは異なり数としては少なめになる。バックパスにはネガティブなイメージを持つ方もいるが、ボール保持のチームにとっては攻撃をやり直す重要な選択肢であり、バックパス頻度が多いほど攻撃継続率が高い傾向にある。もちろん攻撃の目的はゴールでありボールを保持することではないため、このデータの良し悪しはチームの考え方によるだろう。
これらのデータからいくつかのチームを見てみよう。
■浦和レッズ
攻撃継続率においてトップとなっている浦和は前述の通り、保持者に近い線で結ばれた選手が相手のチェックを回避したポジションを取る傾向にある。り、パススピードも速く、相手のラインを突破するボールキャリーも可能なチームだ。被ハイプレッシングにおいてのデータに関してい言えばどれも最良の傾向にあると言えるが、現在の順位は14位。得点力が課題となっており、被プレッシングを突破したその先のフィニッシュワークに問題がある状況だ。本題のテーマと逸れるため一部分だけデータを紹介すると、ボール支配率52%以上のチームのパスCBPと裏抜け頻度(裏抜け1回当たりのボール保持時間)をまとめると下表のようになった。
ボール支配率52%以上のチームのデータ
自陣でのパスCBPにおいて3位だが、敵陣でのポイントは下から2番目。裏抜け1回当たりのボール保持時間も、鳥栖が29秒につき1回であるのに対して浦和は37秒につき1回と少ない傾向だ。良いパスを出せる選手は揃っているだけに、フィニッシュに絡む動きを見直し、良い状況でシュートを放つシーンを増やしたい。
■川崎フロンターレと横浜F・マリノス
被ハイプレッシング時の川崎Fと横浜FM比較
近年のJ1リーグの主役と言っても過言ではない神奈川県の両チームは、被ハイプレッシングにおいて双方とも高い攻撃継続率を示しているが、その中身がそれぞれ異なる点が興味深い。被ハイプレッシングにおける距離範囲別のパス比率を見ると、川崎Fは15m未満のパス比率が高いのに対し、横浜FMは15m以上30m未満が中心となっている。これは横浜FMが横幅を使ってボールを保持している影響があるだろう。相手としてはマークがしづらく、データAの被3m未満率の違いに表れている。ショートパスを中心に打開する川崎FはGKがパス回しに参加するケースが少なく、守備側としてはチェックする選手を限定しやすい。そういった中でも高い攻撃継続率を記録しているのは狭い局面を打開できる技術の表れだろうか。
オフザボールの動きでも両者には大きな違いがある。被ハイプレッシング中の裏抜けやMFラインを突破するランの頻度を見ると、川崎Fはどちらも少ない一方で横浜FMは特に裏抜けを意識している傾向があり、相手の最終ラインに隙があれば一気に裏へボールを運ぶだろう。また、攻撃継続率の試合別分布を見ると横浜FMは高い位置で密集しており、相手に関わらず安定している点も強さの一つだ。
攻撃継続率の試合別分布
夏の気温上昇とともに低下する相手のプレッシングの質を見極め、どういった攻撃からゴールを奪うのかが得点力アップの鍵となる。
八反地勇
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