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特別編:アナリストとJ1前半戦を振り返る
2021-06-19 10:00 RSS

DataStadiumアナリストに訊く vol.12

「DataStadiumアナリストに訊く」では、アナリストを交えたインタビュー形式のコラムで、サッカーの面白さや新たな気付き・視点を与えられるような連載を目指します。

今回はデータスタジアムのアナリスト、藤 宏明 さんと高橋 朋孝 さんに訊いてみました。

——今季380試合の開催が予定されているJ1リーグ戦ですが、全体の約46%となる175試合を消化しました。代表ウイークが入り、少し間隔が空いたタイミングでもあったので、今回はお二人にここまでのJ1リーグ前半戦についての振り返りと後半戦に向けた展望などをざっくばらんに伺いたいと思います。


[藤・高橋] よろしくお願いします。


——初めに、ここまでのJ1を振り返ってみて全体的なトピックや傾向、または例年との違いなど、感じる部分はありますか?


[藤] 一度崩れたチームの立て直しが難しい、というのは感じます。昨年同様に連戦が多いので、立て直す時間が確保できないまま次の試合に臨む場面も自ずと増えますよね。そのため、波に乗れなかったチームはなかなか復調できず、逆に言えば波に乗ってしまったチームは好調をキープする、という状況が目立つ印象です。


[高橋] そこにつながる話ですが、今季は監督交代の決断が早い(※1)ですね。下位4チームが降格するという今季特有のレギュレーションの影響を感じています。


※1:横浜FCが4月7日に下平 隆宏監督を解任、4月14日に鹿島がザーゴ監督を解任、5月13日にG大阪が宮本 恒靖監督を解任。中断期間を待たずに早いタイミングで監督交代が続いた


——続けて、ここまでに目を引いたチームや印象的なチームを教えてください。


[藤] 私は現在4位のサガン鳥栖ですね。注目したいのは、18試合を終えて8失点という失点の少なさです。過去のデータを調べてみましたが、延長戦のレギュレーションがなくなった2003年以降のJ1において、18試合を終えた時点で失点数が一桁というチームは今季の鳥栖以外にいませんでした。


——今季の鳥栖に失点が少ないイメージはありましたが、そこまでだったとは。確かに1試合平均失点0.44というのは強烈な数字ですね。失点の少なさの要因はどこにあると見ていますか?


[藤] 1試合平均の被シュート数がリーグで4番目に少ないので、そもそもシュートを打たせていないことも当然要因といえますが、GK朴 一圭選手の存在も大きいと思います。攻撃の部分でも特徴を持つ選手ですが、セーブ率はリーグトップですし、守備での貢献度が非常に高いですね。また、前提として攻守においてチーム伝統のハードワークがベースとなっていることがリーグトップの走行距離からも分かります。


——高橋さんはいかがでしょうか。


[高橋] 同じく九州勢からアビスパ福岡ですね。名古屋と並んで1点差での勝利数はリーグトップで、先制されても負けない部分からは「勝負強さ」を感じます。セットプレー3プレー以内からの得点は11でリーグトップですし、逆にセットプレーからの失点も少ない。セットプレーの強さは非常に「締まったゲーム」を生んでいる要因だと思います。

——では、次は選手にフォーカスしてみましょう。上半期に目を引いた選手、面白いなと思った選手はいましたか?


[藤] 私からは2名挙げたいですね。浦和レッズの小泉 佳穂選手と徳島ヴォルティスの宮代 大聖選手です。簡単な寸評となりますが、ここまで小泉選手はリーグ戦全17試合に出場。琉球からの加入でJ1初挑戦でしたが、すでにチームに欠かせない存在になっています。ミドルサード、アタッキングサードでのプレー数はチーム内1位、またシュートの前5プレー以内の関与数はチーム内で断トツの1位でした。両足蹴れるのが特長で、相手からすると非常にボールを奪いづらい選手だと思います。

次に、徳島の宮代選手は期限付き移籍元の川崎F戦以外の17試合は全てスタメン出場。チーム得点の16点中5点が彼の得点で、攻撃関連のスタッツはチーム内でほぼ上位になります。シュートの前3プレー以内の関与数はチーム内で最も多く、今や徳島の攻撃をけん引する替えの利かない存在といっても過言ではないかもしれません。


——なるほど。2選手ともに言えることですが、「ここまでやれるとは思わなかった」と感じるサポーターは多いのではないでしょうか。高橋さんはどうでしょうか?


[高橋] まずは、横浜F・マリノスの前田 大然選手。チームの切り替えの早い、リスタートの早い、アグレッシブなサッカーに対して貢献度の高さを感じます。サイドでの出場も多いですが、斜めに裏抜けしたり、クロスに合わせたり、ペナルティエリアの中でチャンスにしっかり絡むことができますね。事実、敵陣ペナルティエリア内でのプレー数はリーグ2位でした。スプリントの頻度も多くて、最後まで落ちないのが魅力的です。

もう1人は、鹿島アントラーズの荒木 遼太郎選手ですかね。チャンスメイクができて、フィニッシュにも絡むことができる。シュートの前5プレー以内の関与数やペナルティエリア進入数、スルーパス数など多くのスタッツでチームトップの数値を記録しており、鹿島の攻撃の中心といえるプレーぶりは印象的でした。

——私はアビスパ福岡に今季新加入したジョルディ クルークス選手のプレーがお気に入りなんですが、今季加入した選手で当たりだった選手、効果的だった選手などはいますか?


[藤] シーズン途中の加入選手ですが、これは浦和のキャスパー ユンカー選手じゃないでしょうか。浦和は、彼の加入で明らかにクロスからの得点が増えています。

クロスから3プレー以内の得点が彼の加入前は12試合で3得点でしたが、加入後5試合で7得点と増加。7得点のうち5得点がユンカー選手のゴールです。

また、加入前は多くの試合で浦和がボール保持時間を長くして戦っていましたが、スピードにも秀でるユンカー選手がいることで、14節のG大阪戦、15節の神戸戦など相手にボールを持たせ、ユンカー選手を起点としたカウンターの戦い方もできるようになったことは変化の1つといえます。浦和は後半戦でも楽しみにしたいチームですね。


——後半戦の話がすでに出ちゃいましたが、これからの戦いに注目したいチームや浮上してきそうなチームについて教えてください。


[藤] ガンバ大阪に注目しています。宮本前監督体制でもGKの東口 順昭選手、DFの昌子 源選手、三浦 弦太選手、キム ヨングォン選手と代表クラスの選手がそろっていることもあり、元々失点数は多くありませんでした。「得点をいかに奪うか」が課題でしたが、松波 正信監督が選んだのは安定した守備からのカウンターで得点を奪う戦い方。直近負けなしの3試合はボール保持率が下がり、奪ってからのペナルティエリア進入やシュートまでの時間を短く、シンプルにゴールを目指す戦い方で勝点を積み上げました。


[高橋] 前線も宇佐美 貴史選手、パトリック選手、レアンドロ ペレイラ選手など質の高い選手がそろっていますし、チームとしてやるべきことをはっきりさせた今後はさらにチーム状態が上がってくる可能性がありますね。


——その点では、G大阪にとっては今季序盤のコロナによる中止試合の影響でACL後のリーグ戦中断期間にも試合が続くというスケジュールをどう乗り切るかがカギになりそうですね。


[藤] そうですね。他のチームがお休みの間にもG大阪は試合が続きます(※2)。ここで勢いを付けられるのか、逆につまずいてしまうのか。イレギュラーなスケジュールがどう作用するのかは注目ポイントになります。

※2:ガンバ大阪 2021 日程・結果・試合比較
https://www.football-lab.jp/g-os/match/


——最後に、ここまで話題に出ませんでしたが、首位を独走中の王者・川崎フロンターレについて触れておきましょう。今季も非常に強い川崎Fですが、この「川崎1強」状態はこのまま続くと思いますか?


[高橋] 今季の各種データを見ても、死角はあまりないように感じます。そんなチームに対して不安な点を強いて挙げるとすれば、レアンドロ ダミアン選手、家長 昭博選手、三笘 薫選手など違いを生み出す選手の存在の大きさが、逆に彼らが不在となる時に浮き彫りになってしまうのでは、という点です。
ただ、そんな不安も小林 悠選手をはじめ、遠野 大弥選手や長谷川 竜也選手など出場時間が少ない選手たちがしっかりと結果を残して払拭しているんですよね。競争力の高さを感じます。


——つまりは今季も川崎Fは強い、ということですね?(笑)  「川崎1強」は後半戦も続きそうだ、ということで締めたいと思います。本日はありがとうございました。


今回はJ1全体の前半戦の振り返りと後半戦への展望というテーマを持ちながら、ざっくばらんにお話を伺ってみました。代表ウイークを終え、本日6/19(土)からJ1が再開。今月末からはACLも始まりますし、楽しみな試合が続きますね。ぜひ、今週末もJリーグで盛り上がりましょう!


文:佐伯 渉

関連リンク

サガン鳥栖 2021 シーズンサマリー
https://www.football-lab.jp/tosu/

アビスパ福岡 2021 シーズンサマリー
https://www.football-lab.jp/fuku/

ガンバ大阪 2021 シーズンサマリー
https://www.football-lab.jp/g-os/

川崎フロンターレ 2021 シーズンサマリー
https://www.football-lab.jp/ka-f/

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