HOME » 祝・J2優勝。徳島ヴォルティスの強さの秘密は?
DataStadiumアナリストに訊く vol.8
「DataStadiumアナリストに訊く」では、アナリストを交えたインタビュー形式のコラムで、サッカーの面白さや新たな気付き・視点を与えられるような連載を目指します。
今回はデータスタジアムのアナリスト、藤 宏明 さんに訊いてみました。
——2020シーズンが幕を閉じました。今回はJ2で優勝を果たした徳島ヴォルティスを取り上げたいと思います。藤さんの考える彼らの強さの秘密について、教えてください。
[藤] いきなり結論からいいますが、選手や監督、スタッフによるチームとしての積み上げと、チームスタイルにマッチする選手を的確に補強してきたフロントの積み上げ。この両輪による成果だと考えています。リカルド ロドリゲス監督が指揮官に就任したのが2017年ですから、4年間の積み上げが功を奏したということですね。
——なるほど。まずは、チームとしての積み上げについて聞きます。データからうかがえることはありますか?
徳島ヴォルティス シーズン比較 -攻撃-
[藤] リカルド体制が始まった2017年から並べてみましたが、概ね今季のデータだけ劇的に変化している、というようなことは見受けられません。これは一貫したスタイルの存在を表しているように思いますが、パス成功率や攻撃回数における得点まで至った割合などは今季が最も高いです。チームとしての攻撃の精度が高まっている結果といえます。
——今季がリカルド体制の集大成になったということですね。徳島の攻撃の強みをどう分析していますか?
[藤] 攻撃の組み立てのそれぞれの局面で自信を持って自分たちの形を出せているのが強みだと思います。やはり、スペインっぽさを感じますね。しっかりと攻撃のパターンがあるといいますか。それをチームとして実行できている。
具体的に見ると、ディフェンスラインの近くで岩尾 憲選手がパスをさばき、岩尾選手がいたスペースに渡井 理己選手が落ちてきてボールを受け、中央で前を向く。垣田 裕暉選手が最終ラインの背後へ動き出して相手DFの裏を取り、彼が受けて高い位置でボールをキープしたり、あるいは外の藤田 征也選手や西谷 和希選手、岸本 武流選手に展開したうえで、垣田選手がニアで仕留める、というのは徳島の得意な形ですね。
個々のスタッツを見ても、ビルドアップの中心でリカルド体制における「チームの心臓」といえる岩尾選手はパス数がリーグ4位。ライン間でボールを受けられ、攻撃のキーマンとしてブレークした渡井選手は被タックル数がリーグ4位、スルーパス数がリーグ2位。得点ランキングでは垣田選手が17得点でリーグ3位ですし、アシスト数ではリーグ2位の9アシストを記録した藤田選手、リーグ7位タイの7アシストを記録した西谷選手と岸本選手など、それぞれ納得の数字を出しています。
——では、守備面はいかがでしょうか。
徳島ヴォルティス シーズン比較 -守備-
[藤] こちらもデータから振り返ると、被シュート数、守備プレー数などはリカルド体制4年間を比較しても大きな変化は見られません。が、被攻撃回数や被ペナルティエリア進入回数、失点数は2020年が最も少ないことから、チームとしての守備の精度が高まっていることが見受けられますし、攻撃と同様に積み上げてきた結果ではないでしょうか。
——徳島の守備の良さや特徴を挙げてもらえますか?
[藤] 最も感じるのは、チーム全体として意思疎通ができていること。例えば、前線からプレスを掛ける時間帯や、自陣で選手間の距離を一定に保ちながらしっかりと守る時間帯など、戦局に応じた使い分けがチームとして徹底できています。引いて守る時間が増えても動じないですよね。
——それこそ「積み上げ」の賜物ですね。続けてフロントの積み上げについても少し聞かせてください。
[藤] チームの戦術にマッチする選手を補強していますよね。J2で頭角を現した選手の宿命ともいえますが、徳島も毎年のようにJ1のチームへ選手が移籍していくわけです。例として、今季の出場試合数上位の選手たちと2018年の上位陣を一覧にしてみました。
徳島ヴォルティス 2020シーズンの出場試合数上位選手と加入年
徳島ヴォルティス 2018シーズンの出場試合数上位選手と退団年
[藤] つい2年前ともいえますが、多くの主力が入れ替わっていることが分かると思います。主力選手が移籍することで生じる穴を的確に補強する。ひいては、いずれ生じるであろう穴を事前に補強してチームに順応させておく。この辺りが成功しているように感じるのは、やはり現場とフロントの両輪がうまく回った結果ではないでしょうか。
——では、最後に来季J1で戦う徳島に期待したいことは、どの辺りでしょうか。
[藤] 来季、個の強いJ1のDF相手に徳島の攻撃が通用するのか、逆に個の強いJ1のアタッカーを相手に守備陣が通用するのか。リカルド ロドリゲス監督の退任はすでに発表されていますが、それを補うフロント力にも期待したいですし、新たな選手の台頭にも期待したい。今後も継続したチームとしての積み上げを楽しみにしたいですね。
コロナ禍の影響により、例年以上にタフなシーズンとなった2020年のJ2リーグを制した徳島。4年間で魅力的なチームを作り上げたリカルド ロドリゲス監督は、今季限りでの退任が決まり、来季は新体制でJ1に挑戦することになる。報道によれば、リカルド体制で作り上げたスタイルを継承できる人材(※)を招へいできるように交渉を進めているとされており、徳島が積み上げてきたモノは「0からリスタート」とはならないはずだ。あくまでも、継続。フロント力も光る徳島のオフシーズンの動向には注目したい。
※12月24日にダニエル ポヤトス氏の新監督就任が発表された
そして、J2王者として天皇杯に出場する徳島のシーズンはまだ終わったわけではない。12月27日にはG大阪との準決勝を控えており、J1上位チームとの現時点での距離感を測るためにも試金石となる一戦。徳島がどのようなパフォーマンスを見せるのか、楽しみに待ちたい。
文:佐伯 渉
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