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コラムColumnsアジアチャンピオンはオリンピック優勝の夢を見るか【なでしこジャパン】。

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アジアチャンピオンはオリンピック優勝の夢を見るか【なでしこジャパン】
2019-12-27 18:00 RSS

女子E-1選手権にて4大会ぶり3回目の優勝を成し遂げたなでしこジャパン。来年の東京オリンピック2020に向けて弾みをつける結果となった。前回大会と異なり(もちろん状況は異なるが)、選手のローテーションに成功したといえるだろう。代表初キャップを記録した栗島朱里、清家貴子、林穂之香を含め、ケガ人とGKを除けば全員が一定時間ピッチに立つことができた。3戦フル出場を果たしたのは大会MVPに輝いた南萌香のみ。その南も大会前の段階ではAマッチ出場数が一桁となっており、フレッシュな面々がそれぞれアピールの機会を得られた格好だ。

・ボール奪取位置と最終ラインの関係


親善試合を含めて5試合連続で無失点と、守備に安定感が生まれている。ワールドカップ時点と比較して大きく異なるのは、最終ラインの設定位置だろう。前回大会比はもちろん、件のオランダ戦ではボールの奪取位置が相当低い位置となっていた。もちろん引いて構えることが悪いわけではないが、押し込まれた状況を挽回する力に乏しいのであれば、守備も含めて相手陣地でゲームを進める時間を延ばす方が、日本には向いているのかもしれない。




課題であったロングボールに対しても一定の成果を出したといえる。オランダ戦と比較すると、相手の前方ロングパスの成功率を下げることに成功した。特に中国戦では長いボールで深い位置を取られることはほぼなかったことが下図の軌跡からうかがえる。

オフサイド奪取数は中国戦で13回、3戦合計では23回を記録した(参考:今季のJ1での1試合平均オフサイド奪取数は1.9回、最多は横浜FM5.9回)。ワールドカップでは4戦合計で7回に留まったことを踏まえると、これは相当な数だ。もちろん相手の戦術にもよるが、比較的高い位置でオフサイドを取れており、緻密なラインコントロールが奏功したといえる。何よりもハーフウェーラインに近い場所からのリスタートというのが大きなメリットで、相手に押し込まれることなくスムーズに敵陣へボールを運ぶことができる。なお、中国戦で奪った13回のうち、後半は3本であった。相手が対策を講じた際や、試合の熱量・疲労度が増す終盤でも(もちろん状況に応じてだが)ラインの高さを維持できれば、ゲームのコントロールという意味でもプラスになるだろう。

・バイタルエリアの攻略と岩渕の存在感

外れ値となりそうなチャイニーズタイペイ戦は別にしても、コンビネーションで崩す狙いが強い日本としては、ポゼッション率は高まる傾向にある(ポゼッション率:中国戦59%、韓国戦 57%)。中盤より高い位置でも比較的ボールをつなげた上に、バイタルエリアへの縦パスも多かった印象だ。ただ、岩渕真奈が不在となった韓国戦は、ややサイドへ寄ってしまったか。

※PA手前のエリアへの縦パス成功から3プレー以内にシュートに至った回数:中国戦5回、韓国戦3回、W杯オランダ戦2回)


岩渕の存在感はスタッツにも表れている。代表でのキャプテンは初経験とのことだが、それに相応しい積極性を見せ、結果も残した。キープ力やテクニックも含め、個でアクセントを付けられる選手はポゼッションサッカーの中では貴重だ。ほかに自ら仕掛けてゴールを狙える選手としては、小林里歌子や池尻茉由が候補に挙がるだろうか。小林は韓国戦で途中投入されるとチームに推進力をもたらし、池尻はチャイニーズタイペイ戦で代表初ゴールをマーク。互いにサイドハーフで起用されることもあり、2列目の得点力向上のキーマンとしても期待がかかる。

東京オリンピック2020では18人というさらに限られた人数でのやり繰りとなるため、ユーティリティー性が重宝されるのは間違いない。とはいえ、一芸特化とまでは言わずとも、突出した個が戦況に劇的な変化をもたらすのも事実。本大会までには個人としても組織としても、さらなるブラッシュアップが求められる。アジアにおける主要大会は全て優勝という成果を残したが、自国開催でのオリンピックではどのような成績を残せるだろうか。

 

Football LAB 江原 正和

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