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「FWのデータに表れない動き」をデータ化する
2019-08-27 16:00 RSS

サッカー選手はGKを除けば1試合において10km余り移動すると言われているが、その中身はそれぞれのポジションによって異なる。例えば、次の図表に示したように、いわゆるボランチの選手が多く該当するCHの場合だと、総移動距離は多いがスプリント回数が少なくなるのに対して、サイドの選手だとともに多い傾向にあるなどだ。もちろん、これらはチームの戦術や個々の役割によって変わる部分ではあるものの、それぞれのポジションの動き方の違いが数値に表れているといえるだろう。今回は、この中からセンターフォワード(以下はCFと記載)の動きについて触れていきたいと思う。

ボールから遠い位置での仕事ぶりをデータ化する


CFというポジションは1試合におけるプレー数が他のポジションに比べて極端に少なく、総移動距離はそこまで多くないポジションだが、加速の総数は他のポジションに近い値となっている。特に、自チームの攻撃中では他のポジションに比べ多い傾向にある。中には、ボールに関与したプレー数が10程度ながら加速回数が140回を超える試合もあるなど、オフ・ザ・ボールにおいてスピードの変化という形で常にアクションを試みていることがわかる。(加速、減速の定義は本記事の最後に記載)。

ボール保持者と加速選手の距離を10m単位でグループ化し、加速回数の割合を計算したものが下図だ。CFの選手は他のポジションと傾向が異なり、プレー選手に近い位置での加速よりやや遠めでの加速が多い。さまざまなケースが想定されるが、例えば自陣でボールを回している時に、最前線で相手の最終ラインの裏を狙うような動きもカウントされる。このような動きは中継では映らないことも多く、また一発のロングパスが通ることもそう多くないが、相手の隙を狙う、もしくは隙を作るために細かく動いているということがわかるだろう。

例として大分の自陣ポゼッション時の1シーンから、ボールの軌跡と当時所属していた藤本憲明(現神戸)の動きを図にした。大分は自陣でのポゼッションからロングパスで相手の隙を突く攻撃を一つのパターンとして持っているが、シュートに結び付けるためにはパサーのみならずCFの動きも重要となるは当然だ。この場面では、ボールから遠い位置にいるにも関わらず、10秒に満たない時間の中で藤本は2回の加速を記録していた。こういったシチュエーションが多い場合、最前線の選手のプレー数は少なくなりやすく加速回数は多くなる傾向にある。

クロス時のスピード変化をデータ化する


CFが加速するタイミングとして分かりやすいシーンの一つは、サイドから中央へクロスボールが入った時だ。ペナルティエリアの外からのクロスにおいて、加速位置と方向を可視化すると、中央からニアへ向けての斜めの加速が最も多いことがわかる。

クロスを上げる際の状況は様々で加速が発生しにくいケースもあるが、加速している選手が1人もいないよりも、多くいる時の方がシュートに至りやすいというデータが表れた。もちろん、ペナルティエリア内に味方がいればシュート率は増すが、それでも加速選手が多い方がシュート率は高い。

CFの加速がゴールに関与した事例を抽出するために以下のデータ条件を指定した。

1. クロスからのゴール
2. CFが加速
3. 2のCF以外の選手が、3m未満に相手選手がいない状況でシュート(ゴール)

これらの条件に合うゴールは今季でも既にいくつかある。2節の湘南の武富孝介(現浦和)のゴールはその一つで、山崎凌吾のニアへの加速に相手DFが引きつけられ、ファーサイドへ動いていた武富が決めたものだ。山崎はボールに触れていないためアシストにもならないが、ゴールに関与したと言っていいだろう。

3節の横浜FMのゴールは右サイド深い位置からの仲川輝人のクロスをエジガルジュニオがニアで触れ、マルコスジュニオールがゴールを決めている。この場面でマルコスジュニオールはペナルティエリア進入後に加速をすることはなく逆にファーで動きを止めていた。同選手を警戒しハイスピードで戻った馬渡だったが、彼も含めDFはエジガルジュニオの動きとボールに視線を取られ、結果的にマルコスジュニオールがフリーになってしまった。味方が大きな動きを見せた際に相手DFの視野から消える選手を作ることもゴールの奪い方の1つとして重要であり、「とにかくペナルティエリアで加速すれば良い」というわけではない点は触れておきたい。

2節のG大阪の小野瀬康介のゴールは上記2シーンとは若干異なるが、左サイドの藤春廣輝のクロスからファンウィジョの短い時間での急加速により空いたスペースへ小野瀬が走り込みゴールを奪った。

このようにゴール前ではボールに触れたかどうかに関わらず、スピードの増減が得点の演出につながることが少なくない。上記のクロスのシーンはセットプレー以外から選んでいるが、セットプレーの場合もマークを振り切るために加速減速を繰り返しているシーンの1つだ。

今後サッカーの試合を観るときは、ボール保持者以外がいつ加速しているかに注目するのも面白いかもしれない。


八反地 勇

関連リンク


大分トリニータの異質なポゼッションサッカー
https://www.football-lab.jp/column/entry/722/

トラッキングデータのコラム一覧
https://www.football-lab.jp/column/?tag=tracking

※加速・急加速・減速・急減速とは
1秒間で9km/h以上スピードが上昇した場合を加速(2.5m/s2[メートル毎秒毎秒])、同14.4km/h上昇した場合を急加速(4m/s2)とし、逆に9km/h、14.4km/h下降した場合を減速(-2.5m/s2)、急減速(-4m/s2)としている。この状況が一定時間続いた加速もしくは減速を一つのグループとし1回とカウント。これを積み重ねることで加速、減速の回数を計算している。移動距離やスプリントの回数と同様に加速の回数はその数自体が評価につながるわけではないが、急な加速、減速が多ければ多いほど体に負荷がかかっていると言える。

2019-08-27 16:00 RSS
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