昇格1年目ながらも健闘を見せ、上位に位置する大分トリニータ。片野坂体制も4年目となり、その独特な戦術はカテゴリーが上がっても継続されている。今シーズンのデータを参考に、大分のスタイルについて考えてみたい。
まずは大方の認識通り、自陣からでもボールをつなぐという点。今季のJ1におけるボール支配率の上位5チームとその値は下の表の通りだ。ボールを握ってゲームを進めようとするチームが並び、大分は5番目となっている。また、エリア別のポゼッション比率では、自陣でのボール保持の割合が69.7%となっており、J1では最も高い(2位は松本の63.6%)。特に、全体の支配率が高いチームの中では異彩を放っている。
次の図は大分の自陣でのポゼッション指数とシュート率をシーズンごとにグラフ化したものである。冒頭で述べたように、カテゴリーが上がった今季もスタイルが継続されていることは数値にも表れており、それが好調の一因ともなっているのだろう。J3時代からボールポゼッション技術の向上に努めてきたからこそ、J1の舞台でも自信を持ってトライできる戦術だ。
もちろん相手のプレッシングに引っ掛かればピンチなのは言うまでもない。自陣でボールを失った回数はリーグ最多で、そこから失点を喫している事実もある。直近の鳥栖戦(※執筆時点。J1第21節の鳥栖戦)における終了間際のシーンや川崎F戦(J1第20節)の2失点目などは象徴的であり、清水戦(J1第12節)で与えたPKも自陣でのボールロストからだった。
また、攻撃回数そのものが少ないのも特徴といえるだろう。攻撃回数は、「ボールを保持してから相手チームに渡る、もしくはファウルやボールアウトなどで試合が止まるまでの間を1回の攻撃」としてカウントしている。1試合平均の攻撃回数はリーグ最少で、呼応するように1試合平均の被攻撃回数も最も少ない。これは1回の攻撃での時間が自チーム・相手チームともに長いためである。
ポゼッションを志向するチームの多くは、ボールを失っても即座に回収を試みることで相手の攻撃時間を奪い、同時に自チームの攻撃時間を増やそうとする。適切なポジショニングでのボール回しはボールの奪いやすさに直結し、敵陣でゲームを進めることはリスク管理にもつながってくるからだ。
その点、大分の守備は対照的。相手にボールを持たせてもお構いなしといった感じでブロック形成時のポジショニングとスライドのスピードを重要視する。そのため、ボール奪取数はリーグで最も少なく、ボールを失ってから10秒未満で奪い返した回数も最少となっている。
押し込んだ状態を理想とするか、引き込んだ状況を理想とするかの違いが、数値からうかがい知れる。結果としてボールを奪う位置は低くなり、攻撃のスタートは自陣低い位置からとなることが多い。これも自陣でのボール保持の割合が上がる要因の1つだろう。また、トランジションを減らすことで相手の攻撃「回数」を制限し、守備組織が整った状態を継続することが目的といえるのではないだろうか。
さて、大分の自陣側にボールがある状態が続けば、対戦相手は「たとえ失っても高い位置で奪い返しやすそうだ」と考え始めてもおかしくはないだろう。それもまた大分の狙いだと思われる。自陣でのボール回しによって相手をつり出して背後のスペースを突くこの戦術は、カウンターと似たような状況が生じることから「疑似カウンター」と呼ばれることもある。
上のグラフは今季のJ1における攻撃スタイル別の得点数と割合を表したものである。ショートカウンターとロングカウンターを含め、3割はカウンターから得点が生まれていることに留意して頂きたい。なお、PKはその他に含まれる。各詳細については以下を参考にされたし。
長いパスが多いのも大分の特徴の1つだろう。前方へのロングパス数ランキングではつなぎの少ないチームが上位を占める中で、大分が1位を記録。先述のポゼッション率の高い他チームとはここでも大きく異なる様相を呈している。通常のパス数ももちろん多く、状況を鑑みて長短のパスを使い分けがなされている。
最後に、下の表はトラッキングデータをもとにした裏抜け数の個人ランキングだ。自分以外の選手がボールを保持している状況下で、相手の最終ラインの裏へとスプリントした回数が記録され、仮にパスが出なくても1カウントされる。チームをけん引していた藤本がランクインしており、目に見えない場面でも多大な貢献をしていたことがわかる。神戸への移籍が及ぼす影響は小さくないだろう。
このように特色のある戦術を披露してJ1の舞台で躍進している大分トリニータ。このまま上位戦線に踏みとどまり、08年のカップ戦制覇に次ぐ快挙を成し遂げられるだろうか。
Football LAB 江原 正和
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