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夏場における走行データの低下とその影響
「夏本番」を迎えた日本列島はすでに猛暑日が続いており、異常とも言える事態となっている。そんな中、明治安田生命J1リーグは約2ヵ月の中断期間を終えて再開。早速多くの試合が組まれており、それぞれの目標に向けて負けられない戦いが待つ。このような夏の暑さの中で行われる試合は、どのような数値の変化が起きるのか。いくつか紹介しよう。
走行距離とスプリント回数の変化
Jリーグ公式サイトで公開されている走行距離およびスプリント数が夏の厳しさを表す上で分かりやすいデータといえるだろう。2016年以降のデータを見ると、開幕時期から少しずつ数値が下がり、8月近辺で最低値を記録。Jリーグの場合、開幕時期はデーマッチが中心で、6月中旬からナイトマッチとなるが、それでも暑さによる影響を回避することができない状況だ。
アクチュアルプレーイングタイム、シュート、得点の変化(2016,2017)
走行距離とスプリントの傾向から、以降のデータは2016年と2017年の月別のデータを合算したものを紹介しよう。ボールタッチベースのデータを見ると、Jリーグのみならず国際大会でも試合のクオリティーを表す指標の1つとして活用されているアクチュアルプレーイングタイムは、5月以降のダウンはあるものの、夏場という面では走行距離ほどの下落ではなく、最もファン、サポーターが期待しているゴールやシュートの数は、表面上だけでいえば夏の影響を受けていない。
攻撃回数とパス前方比率の変化(2016,2017)
一方で1試合における攻撃回数は減少。これに伴い、攻撃が切り替わる回数も減り、1回の攻撃にかける時間が長くなった。前方へのパスの比率が同時期に下がっているのも、それを表すデータの1つだ。
走行距離と強い相関を示すプレーデータはないが、比較的相関があるデータはいくつか存在する。下図は1試合における前方へのボール移動の総距離と、1試合あたりのチームの走行距離を示した散布図だが、前方へのボール移動が多ければ多いほど走行距離は伸びる傾向にある。よって、前方へのパス比率の低下は走行距離の減少にも影響している。
前方へのボール移動距離と走行距離(2016,2017)
Football LABで紹介しているチームスタイルデータも夏場の影響を受けている。夏場に攻撃回数が減っていることについて先に述べたが、チームスタイルの4項目で見ると、最も減少傾向にあったのは「ショートカウンター」で、逆に「敵陣ポゼッション」は若干ながら上昇していた。
チームスタイル発生回数の変化(2016,2017)
なぜショートカウンターが減少したのか。この解を求めるために複数のデータを用意した。まず、ショートカウンターを発生させるためには高い位置でボールを奪う必要があるが、ハイプレスの試行率は夏場に低下し、仕掛けたとしても守備成功率は低く、逆に相手にかわされて被シュートに至る割合は増加する。そもそもハイプレスはリスクを負った守備のアクションだが、夏場はそのリスクがさらに高まるのだ。
ハイプレスデータの変化(2016,2017)
ショートカウンターになり得るエリアでボールを奪ったとしても、その先で素早い攻撃を仕掛けられるかどうかは相手の守備の状況に大きく左右されるだろう。同エリアでボールを奪取してからの5秒間において、守備側がボールホルダーに対してプレスを掛けた割合、そしてボールを奪い返せた割合は夏場に低下。一方で守備側の人数は多くなっており、奪いに行くアクションよりもゴール前に鍵をかけることを優先している。そのためボールを前に出しづらくなり、先に述べた前パス比率の低下やポゼッション時間の増加によって、ショートカウンターだけが際立って減少する傾向となった。
ショートカウンター関連データ
Football LABでは各チームスタイルにおける高速走行人数(21km/h以上で走った選手の数)も各ページに記載しているが、この数値も開幕時期と比べると、夏場に減少。攻撃よりも守備側の減少が目立つが、これは「ショートカウンター」の部分で述べたように、ゴール前にブロックを形成する意図も影響しているだろう。
それでも、攻撃側の高速走行人数と守備側の同人数の差分を見ると、攻撃側の高速走行人数が多い方がシュート率は上がっており、特にショートカウンターにおいては開幕時期よりもその差が大きくなっている。攻撃側はスピードのアクセントをどこに加えるべきか、また守備側は各エリアにどう選手を配置し、相手の攻撃スピードに応じた対処ができるかがポイントとなる。
以上は2016年、2017年のデータを用いて紹介したが、今年の夏はいくつかのカップ戦が行われたものの2ヵ月間リーグ戦が中断しており、過去2年とは違うスケジュールとなっている。厳しい夏であることは変わりないが、これまでとは異なるデータが表れる可能性は否定できない。この2ヵ月間でどのようなトレーニングを行い、コンディションを整えてきたのか。チーム全体の力が試される夏になるだろう。
チームスタイル指標とは
「ハイプレス」の数値化が示したJ1チームの特徴とは
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2024-11-04 15:10
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