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新開発の「チームスタイル指標」が示す、今Jリーグで見ておくべきチームとは。
今季のJリーグでは、“ハイプレス&ハイライン”戦術で評判となったフアン エスナイデル監督が率いるジェフユナイテッド千葉や、ポゼッションサッカーを信条とする大木 武監督が就任して改革が進むFC岐阜などが面白いサッカーをするチームとして話題に上ることが多い。
また、Jリーグを日常的に追い掛けているあなたは、Jリーグをあまり見ない友人にこんな質問をされた経験があるかもしれない。「今、どのチームの試合を見に行けばいい?」「どのチームのサッカーが面白い?」と。
データスタジアムが運営するFootball LABでは、当社で取得しているプレーデータとトラッキングデータ(J1のみ)を組み合わせた解析により、これまで定性的に語られていたチームのプレースタイルを可視化することを目的として「チームスタイル指標」を開発。
簡単に説明をすると、全試合のプレーデータからいくつかの種類に攻撃パターンを分類し、それぞれのパターンにおける攻撃の試行回数を素にしたリーグ内での偏差値をはじき出している。トラッキングデータを取得しているJ1では、各シチュエーションにおける走行距離やポジショニングから、攻守の切り替えや守備陣形といった守備データを扱うことも可能となった。
「チームスタイル指標」における各項目の詳細な説明は割愛するが、どんな項目があり、その項目はどういったプレーを指すのか。気になるあなたは、『チームスタイル指標とは』のページをご覧いただきたい。
今回はその「チームスタイル指標」をもとに、“今、面白いチーム”、“今、見ておきたいチーム”を紹介する。その中で、「チームスタイル指標」という新たなデータの楽しみ方を発見していただければ幸いだ。
【FC岐阜のリーグ内における特異性】
前置きで触れた今季話題の岐阜。彼らのスタイルは如実に「チームスタイル指標」のデータにも表れている。Jリーグ全57クラブの中で最も高い指数を記録したのが、岐阜の「敵陣ポゼッション」で80.4。指数はリーグ内における偏差値であり、「敵陣ポゼッション」という項目において、他のチームと一線を画す数値を記録した。J2における岐阜の特異性は、この散布図を見れば明らかだろう。
ただ、ここで補足しておきたいのは、“チームのスタイルには絶対的な正解がなく、指数そのものの大小が優劣を表すものではない”ということ。
岐阜のようにポゼッションサッカーを志向するチームから一方的に攻め続けられた相手チームがカウンターから1点を奪い、守り切る。この場合、パス関連のスタッツでは岐阜に圧倒されるだろうが、勝敗の上で優れていたのはカウンターから1点を奪ったチームとなる。攻撃スタイルにどれだけ個性を持っていても、ゴールを決め、相手の攻撃を抑えなければ、試合で勝利を収めることはできない。
実際に、岐阜の順位は26節終了時点で17位。魅力的な強みを持つ一方で、弱点を併せ持っているのが現状だ。そんな岐阜の現状については、スポーツナビに掲載のコラム「FC岐阜で大革命が起きている 未完成だが、夢に溢れたサッカーを実施中」で触れている。
パスサッカーへ大きく舵を切った岐阜のように、データが示す各リーグの個性的なチームを紹介することが、久々にスタジアムへと足を運ぶきっかけになればうれしい。
【J1の柏。J2の岐阜、千葉、町田。J3の琉球】
右の図では、各リーグの「チームスタイル指標」内で高い指数を出したチームと数値を一覧にした。
まずは、J1の柏レイソルに注目したい。一時は首位に立つなど、前半戦を盛り上げた柏だが、データの上では「右サイド攻撃」で78.4という最も高い指数を記録。「中央攻撃」の49.9、「左サイド攻撃」の36.5という指数と比較すれば、いかにチームの狙いが右に偏っているかが分かるはずだ。
柏の右サイドといえば、“スピードスター”伊東 純也が持つ縦への強烈な突破力を生かした攻撃で、昨季もわかりやすい武器となっていたが、今季は新加入の右サイドバック・小池 龍太の存在も見逃せない。伊東と小池のコンビを中心に右サイドを制圧し、中央のクリスティアーノや中川 寛斗、左サイドから中央へ進入する武富 孝介や輪湖 直樹が仕留めるパターンも確立。
「右サイド攻撃」のゴール率はリーグトップであり、チームが持つ強みを生かすための狙いと結果がうまくかみ合った理想の形といえる。柏の「右サイド」を見るために、スタジアムへ足を運んでみるのもいいだろう。
J2からは、前述の岐阜に加えて千葉、そしてFC町田ゼルビアをチョイスした。
千葉は後述するため、ここでは町田を取り上げたい。町田は「ショートカウンター」、「攻撃セットプレー」、「ロングカウンター」の項目でいずれも高い指数を記録。表の中で取り上げた「ショートカウンター」、「攻撃セットプレー」については昨季から指数の伸びはあるものの、監督交代によって劇的なスタイルの変化を示した岐阜や千葉とは毛色が違っている。2014年から指揮を執る相馬直樹監督の下で、いわゆる“継続路線”によって狙いを絞ったスタイルの深化を図ってきたことが読み取れるはずだ。
7月20日にJリーグから開示された2016年度のクラブ経営情報によると、町田のチーム人件費はJ2の中で最も少ない1億8900万円。ちなみに、J1の平均は15億7500万円、J2が5億5600万円、J3が1億3400万円である。J2で最も少ない人件費によって構成される町田が、昨季は勝点65で7位、今季は勝点35で現在15位(6位の横浜FCまで勝点差6)と安定した成績を収められるのは、チームとして明確なスタイルを確立しているからかもしれない。
そして、J3ではFC琉球に触れておこう。琉球は、「中央攻撃」、「敵陣ポゼッション」の項目で突出した指数を記録。2年目の指揮を執る金鍾成監督は、「3対1で勝つサッカーを選手と共に2017シーズンも追及していきます」というコメントを昨季終了後に残していたが、チームの目指す方向性は「チームスタイル指標」にも表れている。
ただ、「中央攻撃」での指数の高さは明確な狙いを感じさせるが、そこから生まれたゴールは0。チームの狙いが得点に直結していないのは、指揮官にとっても悩ましいはずだ。J1・J2に比べてパスの成功率が低い傾向にあるリーグにあって、76.8%とトップの成功率を記録するなどスタイルの違いが色濃く見えるだけに、フィニッシュの部分で改善できる余地が大いにあるのだろう。昨季、J3得点ランキングで3位の13得点を挙げた田中 恵太が期限付き移籍でチームに復帰したことが、後半戦の結果にどう影響を与えるか、注目したい。
【昨季からの変化で、監督の目指す方向性が見えてくる】
そして、右の図には各リーグの「チームスタイル指標」内で昨季からの指数の上昇が目立ったチームをまとめた。
J1では、甲府を取り上げたい。甲府といえば、“堅守”、“守備重視”のイメージが根強いかもしれないが、「チームスタイル指標」では「ロングカウンター」指数の上昇が目立っている。今回は詳しく触れないが、昨季よりも最終ラインの位置が高くなったことや、ハイプレスを仕掛ける回数の増加もデータに表れており、今季から指揮を執る吉田 達磨監督が、積極的にボールを奪って素早く攻めるという、昨季とは違った狙いをチームに植え付けた結果ともいえる。その変化が得点につながっていないことは気掛かりだが、スタイルの変化を結果につなげるのは一朝一夕ではいかないということだろう。
J2では、やはり岐阜の変化が際立つものの、千葉と金沢の変化も面白い。
フアン エスナイデル新監督の下で千葉が見せる“ハイプレス&ハイライン”戦術の特徴は、積極的なハイプレスとポゼッション。平均ボール支配率は、62.1%と岐阜に次いでリーグで2番目に高い。ボールが相手に渡れば、ラインを下げずに高いリスクを負ってハイプレスを仕掛ける。チームの狙いは明確だが、千葉で最も高い指数を記録し、昨季から大きな変化を見せたのが「ショートカウンター」ではなく、「ロングカウンター」というのは興味深いデータだ。
そして、昨季J2で21位となり、入れ替え戦を制してどうにか残留を決めた金沢は、今季から柳下 正明監督が就任。就任決定時のコメントでは「攻撃も守備も自分たちからアクションを起こすスタイルを構築し、ゴール前でのシーンを増やす」という方向性を示していたが、その言葉どおりにチームは明らかな変化を見せている。
今季はゾーンディフェンスからマンツーマンに変更し、前線から積極的にボールを奪いに行くシーンが目立つ。おかげで、カウンター関連の指数が昨季から大幅に上昇。「ショートカウンター」時のゴール率はリーグ3位、「ロングカウンター」時のゴール率はリーグ2位、シュート率はリーグ1位と、チームの狙いがしっかりとデータに表れた。
順位表の上では失点数の多さが足を引っ張っているが、金沢の守備を支えてきたセンターバック陣とは違う特徴を持つ庄司 朋乃也、ビョン ジュンボンを期限付き移籍で獲得するなど、戦力補強にも指揮官の意向が垣間見える。後半戦ではどのような変化を見せてくれるのか。金沢に限らず、1つのチームを「チームスタイル指標」とともに追い掛けてみるのも面白いはずだ。
今回は、攻撃にまつわる「チームスタイル指標」について触れてきたが、守備にまつわる「チームスタイル指標」については、また別の機会に紹介しよう。
監督が交代した広島・浦和のスタイルが今後どう変化していくかなど、ぜひとも話のネタに「チームスタイル指標」をご覧いただければ、幸いだ。
Football LAB 佐伯
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2024-11-04 15:10
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