7勝6分21敗の17位でシーズンを終えた湘南ベルマーレ。99、10、13年に続き、四度目のJ2降格を迎えてしまった。
主力が移籍した影響がささやかれていたが、数字上での変化は見られたのだろうか。まずはチームの成績を比較してみる。得点・シュート数は減少し、失点・被シュート数は増加。単純な結果だけを見れば、ネガティブな要素が上回った。
また、1点差での敗戦が7試合増え、引き分けは3試合減った。総敗戦数に対する1点差負けの割合は15%近くも高くなっており、競り負ける試合が増えた印象だ。
さらに、先制点を奪われると逆転はおろか、引き分けにすら持ち込めないという結果に。逆転勝ちはゼロで、引き分けに持ち込んだ試合も1つしかない。先制された試合数そのものは2しか変わらないが、それでも15年はその半数近くの8試合を勝点につなげていた。先制を許した場合の勝点獲得率を計算してみると、その差は歴然だ。16年は5.3%と非常に低く、08年に掲げていたリバウンドメンタリティーを発揮できずにもがき苦しむシーズンとなった。
時間帯別の得失点では、前後半の開始15分や終盤の時間帯といった「注意すべき時間」での失点が増加している。序盤での得点数も減少しており、必然的に追う展開が多くなった。立ち上がりの不安定さが、難しい戦いを強いられた要因の1つといえるだろう。
それを象徴する数値として、自陣へのパス成功率や自陣でボールを失って相手の攻撃に切り替わった回数などを時間帯別にまとめてみた。
1~15分、46~60分のパス成功率はほかの時間帯よりも劣っており、ボールをロストした回数やペナルティエリアに進入された回数も多い。低い位置でボールを失えば、失点のリスクが高まるのは当然だ。
併せて、16年のJ1チームを対象とした自陣へのパス成功率を掲載する。1~15分、46~60分に関しては、他チームと比較しても明らかに低く、唯一80%を下回った。パス数そのものが近いFC東京・甲府・磐田と比べても、かなりの差が出ている。
チャレンジをしようとした結果なのか、浮き足立ってしまっていたのかは定かではないが、事実として10連敗中にはこの時間帯での失点が続いている。
早い時間帯に先手を取られてしまうと、ゲームプランの変更は避けられず、試合の主導権を握るのも難しい。ハーフタイムを挟んでも、同じことがいえる。ネガティブな事象が繰り返されれば、心理面にも影響が出てくるはず。練習ではできていたはずが、本番では精度を欠くという悪循環に陥ってしまった。
ボールの奪い方にもやや変化が表れている。
敵陣でタックルを仕掛けた回数は増えているものの、成功率は低下。ボールホルダーに対して前線からアプローチはできていたが、奪い切れたわけではなかった。結果、攻撃の開始位置も後ろに下がることに。速く攻めようにも、始点がゴールから遠ければ、当然時間も手数もかかってしまう。
さらに、チーム内で敵陣でのタックル数が多かった選手トップ5を年度で比べてみると、気になる箇所が何点か目につく。
・「移籍した選手がランクインしていること、新加入選手はランクインしていないこと」
・「ランクインした選手のポジション」
・「敵陣での成功率」
チームを去った永木・遠藤に加え、菊地はケガによる長期離脱。15年の上位5人のうち、3人が16年は不在となった。その中でも奮闘した石川や、出場時間を鑑みれば申し分ない大槻は評価に値する。ここは、ポジティブにとらえていいだろう。マイナスの因子は、前述の3名は敵陣でのタックル成功率が8割を超えているのに対し、16年はボランチ、あるいは最終ラインの三竿のそれが低めの数値を示している点だ。
前から圧力をかけて中盤付近で奪うというのが一般的なプレッシングのスタイルで、湘南もそれを指向しているはず。しかし、数字を見る限りでは中盤・最終ラインの選手が高い位置で奪えたかは曖昧で、どこで奪うのかがやや不明瞭な印象を受ける。本来であれば、高い位置でボールを奪い、そこから縦に付けていくのが1つの理想なのだろうが、積極的な守備の姿勢は見せたものの、連動性に欠けて中盤の密度の低下を招いてしまった。
それでも、スタートラインが低いながらに攻撃には工夫を凝らしていた。
スルーパス、特に短めのスルーパスに加え、ダイレクトプレーを挟むことでボールを握った状態からの打開に挑戦。スルーパスそのものの数は多くはないが、ショートスルーパスに限定すると、リーグでも上位で、成功率は1位を記録している。さらに、ワンタッチでのショートスルーパスは回数、精度ともに上昇。長いボールを蹴ってヨーイドンではなく、短いパスを駆使して裏を取ろうとした、崩し方の一端を垣間見ることができる。
スルーパス、すなわち最終ラインの背後へ出したグラウンダーのパスのことだが、これが短いとは何を示すのか。裏へのボールなので相手は戻りながらの守備を強いられる。そのため、守備側はディフェンスラインを下げざるを得ず、また視線も動かされてしまう。攻撃側にとっては、ショートパスが成立していることから、最低でも1人は味方が近くにいるため、自ら運ぶ、リターンをするなどの選択肢が増え、非常に有利な状況だ。
単純に短いだけのスルーパスであれば、誰かがキープしてタメを作ればよい。だが、ワンタッチで、なおかつ裏へのショートパスを成立させるとなると、スルーパスの出し手となる選手にパスが渡る前か同時くらいに、受け手は動き出す必要がある。選手間の距離がコンパクトでないと、短いパスとはならない。そのため、ここでも密度を高めることが求められていたと考えられる。
さらにCKに関する数値を見てみたい。
獲得したCKの数はほぼ変わらないので、攻め込む状況は一定数作れていたはず。ただ、CKでのクロス成功率は大きく向上しているにも関わらず、得点に結び付いた数は減少。サインプレー等を含めてさまざまな手段を用い、フィニッシュには至ったが、その精度が伴わなかったために、得点数は伸びなかった。
17年はカテゴリーを落として戦うことになるが、J2ではJ1からやってきたチームに対して、引いて固める戦術を採用するケースも多いため、16年のように自らボールを握って崩すことに力を割いてきた成果が実を結ぶかもしれない。また、15年のような「高い位置で奪ってからの速い攻撃」を取り戻すことができれば、カウンターでもポゼッションでもリズムをつかめるようになるだろう。幸い、菊地はすでに実戦復帰して結果も出しており、石川とダブルボランチを組めば、中盤の奪取力は相当なものになりそうだ。ボランチには、U-19日本代表の神谷も控えており、攻撃的なアクセントとしても期待ができる。
「湘南の暴れん坊」が、再びJ2を席巻する可能性は高い。