HOME » レノファ山口FCとFC町田ゼルビアのJ2挑戦を振り返る~昨季との比較から見えたポイントとは?
J3リーグが設立されたのが2014年のため、J3からJ2へ昇格したチームという事例は昨季のツエーゲン金沢、今季のレノファ山口FCとFC町田ゼルビアの3チームのみ。J2からJ1へ昇格したケースを考えると、昇格先のリーグで苦戦する事例を多く見かけるが、前述の3チームは昇格先のJ2でも中位以上の成績を収めており、一時は昇格プレーオフ圏内に入る勢いを見せた。
J3とJ2でどのようなデータ変化が起きたのか?今季の山口と町田のデータを昨季と今季で比較し、継続できた点とできなかった点を探った。
まずは攻撃のデータを比較しよう。
表には攻撃に関わるスタッツの試合平均値を算出し、その増減を右に並べている。昨季の山口は圧倒的な得点力を持ち、平均ゴール数は2.61を記録。さすがにこの得点力をJ2でも継続することはできずに半減したが、総得点はリーグ6位。シュート数はほぼ変わらず、攻撃へのトライという点では継続に成功している。それでもゴールに至らなかったのは、枠内シュート数の減少と枠外シュート、ブロックされたシュートの増加が要因だろう。スルーパスの減少からも分かるように、与えられたスペースの少なさやシューターに対する相手DFの寄せの速さがJ3時に比べて厳しくなり、容易にシュートが打てなくなった可能性がある。
町田も山口と同様に平均得点が下がり、シュート数も減ったが、その多くは枠外シュートの減少による影響であり、決定率(ゴール÷シュート)という面では上昇。攻撃へのパスもJ3時代と近い数値となっており、攻撃面においては継続することができた。
上記のデータの中で最も増加率が高いのが、山口のクロス数。このクロスのデータをエリア別で分けたのが右の図だ。
ペナルティエリア脇からのクロス、そして一列低い位置からのクロス本数が増加しており、一部のエリアを除いては成功率も増加。逆にペナルティエリア内でのクロス本数に大きな変化はないが、成功率が大きく下がっている。J3時の山口はクロスに至るまでのシーンで相手DFを崩せていたため、ペナルティエリアからのクロスも通りやすい状況となっていたが、J2昇格後はこのエリアを簡単に攻略できず、外からのクロスが増加。クロスのタイプは変わったが、結果的にクロスからの得点パターンは昨季とほぼ同じ割合を記録した。
次の表は、攻守の切り替え部分からデータを4つピックアップしたもの。こちらも山口と町田は全く異なるデータ傾向が表れている。
高い位置でボールを奪ってからのショートカウンターもパターンの1つだった山口だが、このシュート率は低下。一方、ディフェンシブサードでボールを奪ってからシュートで終わる割合は増加しており、低い位置からの攻撃生成においてはJ2でも通用していた。しかしながら、ボールロストからの相手攻撃ではディフェンシブサードの数値が目立っており、低い位置で奪われた際の守備に課題が生まれている。
町田のデータを見ると、全体的にボール奪取エリアは下がり気味だが、奪ってからシュートへの割合はそこまで大きな変動はなく、ディフェンシブサードからのシュート率が下降したのみとなっている。一方で、ロストからの守備は大きく変化。低い位置で奪われてからの被シュート率はJ3時から大幅に改善されており、その要因の1つとして奪われてからすぐに奪い返すことができた点が挙げられる。アタッキングサードからの被シュート率は増加してしまったが、自陣ゴールに近いエリアでの切り替えが早くなったことで、ゲームの崩壊を阻止した。
最後に守備に関連するデータを紹介しよう。J3時に比べ、失点は山口が約1.5倍、町田が約2.2倍増加した。セットプレーからの失点(セットプレー5プレー以内の失点)もそれぞれ約2倍増えており、被シュートも1.3倍増加している。これまで両者は異なる傾向が表れていたが、ここは同じような増加率となった。やはり失点数に関しては、昇格前と後でキープさせるのは難しいのかもしれない。
守備に関するアクション数の変化は、相手のプレーにもよるため単純比較は難しい。ただ、増加率の高さで見ると、気になるのは町田のディフェンシブサードでのファウル数だ。エリア全体ではほぼ同数だが、このエリアでのファウルは約1.6倍増え、相手にセットプレーの機会を与えてしまっている。この表にはないが、町田の相手のフリーキックからのクロス成功率は17.1%から29.7%まで上がっており、自陣ペナルティエリアでの空中戦勝率の低さともつながっている。セットプレーからの守備が十分ではない点を考えると、来季はファウル数を減らしていく必要があるだろう。一方で、山口、町田ともにオフサイド奪取数は増え、特に町田はリーグ1位の数を記録した。J3で築いたコンパクトなディフェンスがJ2でも通じた1つの指標と言える。
今季はそれぞれ持ち味を発揮できた両者だが、今季の金沢を見ても分かる通り、来季もこの成績が継続できるとは限らない。特に、山口は主力選手が引き抜かれているため、チームを再構築していく必要がある。2017年の開幕に向けた準備はチームの将来を左右する重要なものとなるだろう。
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