「J2は今年もプレーオフ出場権争いが混戦」
2014年のJ2も第37節までが終了し、すでに湘南は昇格、優勝を確定させ、2位松本も3位磐田と勝ち点差が8開いており、自動昇格の座を勝ち取るまで秒読み段階となっている。一方、J3リーグへの残留争いは、富山が21位以下を確定させ、次節讃岐が勝ち、富山が負けると富山は最下位=自動降格が確定する。また、J3リーグの2位との入れ替え戦に回ることを余儀なくされるのは、東京Vと讃岐の2チームに絞られていると言っていいだろう。
一方、プレーオフ出場権争いは今季も大混戦となっており、残り5試合となったこの時点でも、数字上は19位の熊本まで可能性を残している。クラブライセンス制度により、昇格の権利を持たないチームもいくつかあるが、どのチームも気の抜けない戦いが続く。ただ、「残り試合数より勝点差が大きいと、順位の逆転は難しい」という法則に照らし合わせると、現実的には勝点55で6位の山形と5ポイント差で10位につける京都までが、プレーオフ出場権争いの対象チームと言っていいのかもしれない。
また、北九州はプレーオフ出場権がないため、このまま北九州が6位以内に入った場合、残りの3チームで最上位のチームは準決勝が免除され、決勝も引き分け以上で昇格という非常に有利な条件となる。過去2年間は3位チーム(2年とも京都)が昇格できない悪いジンクスがあるものの、この条件は相当のアドバンテージになるはずだ。
今回のコラムでは磐田、千葉、山形、岡山、大分、札幌、京都を中心にプレーオフ出場権争いの行方を考察していきたい。
「プレーオフ進出の条件は「4連勝以上の経験」」
プレーオフ争いが例年以上の混戦を示す数字として、各チームの連勝が年を追うごとに少なくなっていることが挙げられる。右の図は過去3年間における、2014年J2チームの最大連勝記録である。2012年は3連勝以上をしていないチームが5チーム、2013年には3連勝をしていないチームが7チーム、2014年になると9チームと増えてきている。
また、2012年には10チームが4〜6連勝を記録していたが、2013年は京都の7連勝、千葉の6連勝を除き、3〜4連勝のチームがほとんどで、今季は湘南を除くと4連勝が最長連勝数となっており、上位から下位までレベル差がなくなってきていることを示している。
連勝数とプレーオフ進出チームとの関係性を見ていくと、2012年の進出チームは京都(6)、横浜FC(6)、千葉(6)、大分(4)。2013年の進出チームは京都(7)、徳島(6)、千葉(6)、長崎(4)と4連勝以上が共通項となっており、連続で勝ち切れる力を持っているチームがプレーオフに進出している。
ただ、今季は4連勝を記録したチームが湘南、松本、磐田、横浜FC、福岡しかいない。残り5試合で連勝できたチームがプレーオフに進出するという、分かりやすい状況と言っていいだろう。
「調子を上げてきているチームは千葉、札幌、山形、大分」
続いて、今後4連勝以上するチームを探すという意味においても、最近好調/不調のチームを見ていきたい。上の表は最近10試合の順位表である。ピンク色になっているのは、プレーオフ出場権争いをしている7チームの中で現時点の順位よりも上位のチーム、水色になっているのは下位のチームである。
まず好調と言えるチームは千葉、札幌、山形、大分。千葉は6月23日に鈴木淳監督との契約を解除。関塚隆監督に代わってからは8勝7分け2敗と好調をキープ。前節は大分との直接対決を制し、天皇杯も準決勝まで勝ち進んでいるように、勢いに乗っている。次節の群馬戦で勝利を収めると4連勝で、今最もプレーオフ出場に近いチームかもしれない。続いて、札幌は8月末に財前恵一監督を解任。バルバリッチ監督が就任してからは、5勝2分け2敗と立て直し、6位の山形との勝点差は3と十分にプレーオフ出場圏内を狙える位置につけている。
山形は今季から就任した石崎信弘監督が堅守速攻のサッカーを志向し、失点の少ないチームを作り上げているが、これまで連勝がなく、ここ一番で勝ち切れずにいた。ただ、前節の勝利で初めて連勝を達成し、チームとしては上り調子。千葉と同様に、天皇杯を勝ち進んでいるのも好調の要因かもしれない。大分は松本、千葉との直接対決で敗れ、一歩後退したものの、ここ10試合の成績で見ると悪くはない。まだまだばん回できる位置にいる。
この4チームの共通点はいずれも失点が少ないことだ。どのチームも1試合平均1点以下となっている。どのチームも攻撃陣がハードワークを怠らずに前から守備をするところも似ており、残り試合でしっかりと堅い守備をしてまずは失点をしないサッカーを続けられるかが、上昇していく上でのポイントかもしれない。
一方、失速気味なのが磐田と岡山。磐田はシャムスカ監督が解任され、名波浩氏が監督に就任。その後はややチーム状態が改善されつつあるが、まだ体制が変わって間もなく、名波効果が分かってくるのはこれから。磐田は失点が多く、監督交代で守備面での改善が見られるのか注目だ。岡山はかねてより堅守が特徴で、シーズン序盤からプレーオフ出場圏内をキープしていたが、ここのところ失点が多く、前節では山形との直接対決で大敗を喫し、7位に転落した。メンバーを変更するなどして対応しているが、効果はまだ出ておらず、原点に戻っての立て直しが必要といったところか。
こうして見てみると、プレーオフ進出に向けて必要なことは、残り5試合を1失点以内に抑えて戦うこと。その上で連勝を重ねられるチームが勝ち上がっていくだろう。
「プレーオフを勝ち上がるために 〜複数得点ができるか〜」
次の図は「2014年トータルの1試合平均勝点、得点、失点」「最近10試合における平均勝点、得点、失点」「最近10試合-2014年の差」を差の平均勝点でソートしたものである。見方としては、最近勝点をのばしているチームは得点力がアップして勝点をのばしているのか、失点が減って勝点をのばしているのかを把握するために作ったものである。
全体の勝点の傾向を見ると、讃岐、富山といった残留を争っているチームが平均を勝点をのばしており、自動昇格ラインのチームが相対的に低いという傾向だが、平均勝点が高いチームのランキングと相関がありそうなのは平均得点の方だということがわかるだろう。
J2は守備に重きを置くチームが多く、ある程度の守備組織を確立させた上で得点力のアップを図る、という順番でチーム作りをしているところが上位に来ている。そもそも平均失点が1点台だった札幌、千葉、山形あたりは1.5点台から1.7〜1.8点台まで上昇しており、複数の得点を取れるチームになってきていると言えるのではないだろうか。一方、大分は守備を改善してきており、平均失点が1点台に到達している。前からプレスを掛けてダニエルを中心になるべく前でボールを奪う戦い方がフィットしてきた。京都も守備が改善してきているものの、肝心の得点力が陰を潜めてきている。大黒に託す以外の得点パターンの構築が必要かもしれない。苦しんでいる磐田、岡山は平均失点が増加。磐田は平均得点も低下してきており、改善ポイントがたくさんありそうだ。
連勝をしていくためのもう1つの要素として、平均失点が1点台の守備に加えて複数得点を挙げられるかどうかが、プレーオフ進出に向けてのポイントとなるだろう。「引き分けの場合、上位が勝ち上がる」プレーオフのルールを鑑みても、守備を固められたとしても突破できるチームであることが重要なポイントだ。昨年は準決勝が両方とも引き分けで上位が勝ち上がるという展開だった。下克上を成し遂げられるだけのチーム力を備えることが、基準の1つになる。
複数得点を取る上で大事なポイントは、得点パターンを複数持ち合わせているかどうか。特に、残り5試合はどのチームも入念なスカウティングを行った上で試合に臨んでくるはずで、「武器」が豊富なチームの方が有利になる。
以下、最近10試合の7チームの得点ランキングを記載しておく。
<参考:最近10試合の複数得点者(カッコ内は最近10試合の得点数)>
<磐田(14)>
松井 大輔(3)
櫻内 渚(3)
前田 遼一(2)
フェルジナンド(2)
<千葉(15)>
森本 貴幸(6)
谷澤 達也(3)
中村 太亮(2)
キム ヒョヌン(2)
<山形(14)>
川西 翔太(4)
ディエゴ(3)
宮阪 政樹(2)
山崎 雅人(2)
<大分(13)>
林 容平(4)
為田 大貴(3)
ダニエル(2)
<岡山(12)>
久保 裕一(3)
荒田 智之(2)
押谷 祐樹(2)
<札幌(13)>
都倉 賢(7)
上原 慎也(2)
<京都(12)>
大黒 将志(6)
三平 和司(2)
ドウグラス(2)
「直接対決を多く残す磐田、直接対決が少ない山形、残留争いチームとの戦いを残す千葉」
最後に残り5試合の対戦相手を確認していきたい。プレーオフに絡みそうなチームをオレンジ、自動昇格チームを緑、残留争いチームを青でハッチングしている。
まず3位の磐田だが、5試合中4試合がプレーオフ争いをしているチームであり、群馬も現在好調のため、すべての試合において相手が力を入れて戦いに望むだろう。見方を変えれば自力で3位を死守することができ、ライバルを蹴落とすことができる立場にある。ただ、この直接対決を落としていくと、そこで勝利を収めたチームに勢いを与え、磐田のいる3位の座を明け渡すことになるだろう。特に、39節の千葉戦は勝点5差であり、この試合が今季の「リーグ3位」の座を占う上での最注目の一戦と言ってもいいだろう。
5位の千葉は磐田との対戦後に一度もアウェイで勝ったことのない松本戦を迎える。松本はこの試合までに自動昇格を決めている可能性もあるが、いずれにしても難しい試合となるだろう。残りの富山、讃岐もこの時点で順位が確定している可能性があるが、とりわけ最終節に戦う讃岐がまだ20位浮上のチャンスを残していれば、この最終戦は正真正銘の「死闘」になるかもしれない。昨季の最終戦も、最下位の鳥取を相手にアディショナルタイムの得点で辛うじて引き分けた苦い経験もあり、油断はできない。
6位の山形は直接対決が41節の磐田戦しかなく、自分たちのやりたいことをきっちりとこなせば十分にプレーオフ出場圏内に残っていけそうだが、昇格プレーオフを意識しすぎて勝点を取りこぼしていくと、磐田戦あたりで重要な局面を迎えることとなるだろう。
7位の岡山はプレーオフ出場圏外に落ちたが、気持ちを切り替えるには良いタイミングのはずだ。38節の大分戦、39節の京都戦とプレーオフ進出を目指すライバルに打ち勝つことができれば、再び上昇気流に乗ることができるはずだ。
8位の大分は38節の岡山との直接対決で勝利を収められれば、続く対戦相手は岐阜、水戸とJ1ライセンスを持っていないチームとの戦いとなる。1点気になるのは湘南との戦いを残していることか。9位の札幌、10位の京都はともに磐田との戦いを残しており、面白い試合になりそうだ。
J2残り5試合、J2らしく堅い守備組織を構築し、少ないチャンスで得点をつかめるチームはどのチームになるのか。どの試合も目が離せない試合になりそうだ。