「アメリカ大陸旋風巻き起こるブラジル大会」
ワールドカップも56試合が終了し、ベスト8が出そろった。顔ぶれはドイツ(2位 ※FIFAランキング。以降同じ)、ブラジル(3位)、アルゼンチン(5位)、コロンビア(8位)、ベルギー(11位)、オランダ(15位)、フランス(17位)、コスタリカ(28位)、とグループステージ1位チームが全て勝ち進んでおり、顔触れもコスタリカ以外は比較的順当な結果となっている今大会といえよう。
残り8試合はどれも目が離せない試合ばかりだが、本コラムではグループリーグを突破したチームの共通項を考察していきたいと思う。
まず、以下の図はカテゴリー別の勝敗と決勝トーナメント出場率を2014年と2010年で比較したものだ。今大会は、すでにお気づきの方も多いと思うが、南米勢と北中米勢の強さが目立っている。南米は6チーム中、5チームが決勝トーナメントに進出。平均得点が1.9とカテゴリー内で最高得点、失点も0.9失点と最も少ない。次いで高いのが北中米でホンジュラスを除く3チームが決勝トーナメントに進出しており、「アメリカ大陸」チームが好成績を収めたといっていいだろう。
ちなみに2010年の結果も南米が全チーム予選突破しており、欧州サッカーをよく見ている日本人にとっては意外な結果ともいえるのかもしれない。
「ポゼッションサッカー至上主義でなくなった今大会」
続いて、2010年、2014年のグループリーグ終了時点におけるボール支配率ランキングと決勝トーナメント進出チームをまとめたのが上の図である。2010年はボール支配率が高いチームベスト10のうち、8チームが決勝トーナメントに進出。11位以下を見ても、比較的支配率が高いチームが決勝トーナメントに進出する傾向となっている。
2010年は優勝したスペインが掲げる「ポゼッションサッカー」が席巻した大会といってもいいだろう。なお、最も支配率が低くて決勝トーナメントを勝ち上がったのが日本であり、2014年までの4年間はベスト8以上に上がるために「ポゼッションサッカー」を掲げ努力した期間だったといってもいいのかもしれない。
ところが、2014年のボール支配率ランキングを見てみると、トップ10のうち、4チーム(スペイン、イタリア、コートジボワール、日本)が決勝トーナメントに進むことができなかった。2010年の覇者は引き続きポゼッションサッカーを掲げて大会に臨んだが、世代交代がうまくいかなかったこともあり、トータルフットボールを捨てたオランダのカウンターサッカーの餌食にあったのが印象的だった。
また、前大会よりも支配率を下げたブラジルやメキシコ、オランダなどアンチポゼッションで勝つことにこだわるチームも決勝トーナメントに進出しており、旋風を巻き起こしたコスタリカや初のベスト16にコマを進めたアルジェリアも支配率は半分以下である。
なお、ポゼッションサッカーを掲げてチームを作り上げた日本は32ヵ国中7位まで支配率を上昇させたが、決勝トーナメントに進むことができなかった。つまり、2014年は4年前にスペインが作り上げたポゼッションサッカーとは明らかに違うスタイルのサッカーが勝ち上がっているといっていいだろう。
「今大会の特徴:少ないパス数で縦に速いサッカーが強い」
もうひとつ、気になるデータを紹介したい。2010年と2014年のグループステージにおける「ボールを奪ってからシュートまでの経由時間ランキング」と決勝トーナメント出場チームとの関係を考察していきたい。
まず、2010年と2014年のグループリーグ全ゴールにおける
「ボールを奪ってからゴールまでの平均時間」
2010年:16.4秒 → 2014年:15.8秒 (-0.6秒)
「ボールを奪ってからゴールまでのパス数」
2010年:4.6本 → 2014年:4.0本 (-0.6本)
と、短い時間&少ない手数でボールを前線へ運んだ方がゴールに結び付きやすかったといえる。
また、「ボールを奪ってからシュートまでの経由時間とパス数」も同様の傾向で、全体的に「経由時間が少ない」チームが増えている。さらに、2010年は経由時間&パス数が多いチームが比較的決勝トーナメントに進出しているが、2014年においては、経由時間が20秒を超えたチームはスイス、アメリカ以外で勝ち上がったチームはいない。
一方、今大会旋風を巻き起こしたコスタリカ、チリなど北中米、南米勢はシュートまでの経由時間が短く、ブラジル、オランダといった比較的パス主体のサッカーだったチームも「少ないパス数で縦に速い」スタイルで攻撃していることが、今大会の特徴といえるだろう。
印象的なのがブラジルやオランダといったポゼッションサッカーを実践しようと思えばできそうなチームが「縦に速い攻撃」を意識していることだ。オランダは「トータルフットボール」という看板を持っていながら、王者スペインに勝つために5バックを採用し、「縦に速い攻撃」でスペインを完全撃破した。
こういったデータを見ていると、「縦に速い攻撃」は今大会で勝ち上がる上での共通項ともいえるかもしれない。なお、日本は32チーム中31位であり、今回の日本に足らなかったもの、今後掲げていく課題として浮き彫りになったのかもしれない。
データから見えてきた共通項は「縦に速い攻撃」。ただ、これはあくまでもグループリーグでの共通項であり、ベスト8以上、優勝まで勝ち取るためには、この要素をベースにチームが置かれている状況に対してさまざまな処方箋を持つチームが勝ち上がっていくのではと予想している。