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コラムColumns【ゲキサカ×Football LAB】第3回「選手交代から見るザックジャパン」by 山本昌邦。

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【ゲキサカ×Football LAB】第3回「選手交代から見るザックジャパン」by 山本昌邦
2014-06-10 17:00 RSS

 指導者・解説者の山本昌邦が、データを基にサッカーを徹底分析するコラム「山本昌邦のビッグデータ・フットボール」。W杯で日本はグループリーグを突破し、さらなる高みへ辿りつくことができるのか。勝敗の行方を左右する采配の面から日本代表を鋭く分析する。

 サッカーの試合において選手交代は非常に重要なファクターである。先発した選手はアスリートの性(さが)として最後まで試合に出ていたいと思うものだが、1か月の間に会場をあちこち移動しながら最大7試合を戦わなければならないW杯のような戦いでは“先発完投”に大した意味はない。登録メンバー23人全員を戦力化し、うまく使い回しながら選手の労働量、消耗度をうまく分散させる必要がある。

 この夏のW杯ブラジル大会で赤道に近いブラジル北部で戦うチームはどこも高温多湿に悩まされるはずだ。昨夏のコンフェデレーションズ杯でも3位決定戦に回ったイタリアは23人の登録選手中、最後は13人しか満足に戦えない状態になっていた。W杯はコンフェデレーションズ杯に比べれば日程に余裕はあるとはいえ、長いシーズンを終えたばかりの身体は過酷な条件にさらされると簡単に古傷や持病を再発したり悪化させるだろう。主力選手ほど所属クラブで無理使いされているから、余計に取り扱いには細心の注意が必要になる。

 W杯ブラジル大会の日本の対戦相手で、その点で一日の長を感じるのはコロンビアのペケルマン監督である。アンダーエージのW杯で祖国アルゼンチンを何度も優勝に導いた同監督はビッグイベントの勝ち上がり方を熟知しているに違いない。

 労働量の分散とは別に、サブ組にはもう一つ、重要な役割がある。交代選手としてラスト15分に勝利に直結する仕事をやってのけるという重大な使命である。勝っている試合を勝ったままで終わらせる、劣勢の試合を追いつき、ひっくり返す。選手にハードワークが要求される現代サッカーでは先発した11人がそのまま試合を終わらせることなど絶無に近い。交代のカードを切る時間、切る順番を間違えて、チームが沈んでいくこともあれば、絶妙な交代がチームを蘇生させることもある。3枚の交代のカードがチームの命運を握るのである。

 表1は日本代表の公式戦における交代選手の出場時間の平均を表したものだ。交代が5人も6人も使える親善試合はデータから除外した。W杯予選やアジア杯、コンフェデレーションズ杯、東アジア杯のように3人しか交代が使えない、いわゆる真剣勝負の場合、日本の最初の交代は59・9分、2人目の交代は74・8分、3人目の交代は88・1分という数字が出ている。

 一方、日本の相手は最初の交代が52・2分、2人目の交代が71・3分、3人目が82・5分。いずれも相手の方が仕掛けは早い。

 ちなみにW杯の平均はどうだろうか。1人目は59・8分、2人目は72・7分、3人目は81・5分となっている。3試合の短期決戦で延長に入る心配がないグループリーグの戦いに限るとどうか(表2)。交代は1人目が58・6分、2人目は71・6分、3人目は79・6分とやはり若干ではあるが早くなっている。それは日本も同様だ。

 全体を通してもグループリーグの戦いに限っても、日本の交代が相手より遅いのはアジアにおける対戦相手との力関係に負うところが大きいのだろう。アジア相手では日本が主導権を握り、日本のリズムで試合を進めることが多い。日本が先に点を取ろうものなら、その流れはさらに強まる。相手が日本のリズムを壊し、流れを断とうとすれば、フレッシュな戦力を早めに投入して何とかしようとするのは当たり前だろう。日本の攻撃に振り回されて疲れが早めに出た選手もいることだろう。

 優位に試合を進める日本は、そうやってさらされた相手の手の内を見てから、次の一手を打てる立場。相手がグーを出せばパー、チョキを出せばグー、という具合に後出しが許されるのだから、遅め、遅めの交代に理がないわけではない。

 気になるのは交代で出た選手の活躍具合である。表3は交代出場の選手が挙げたゴールの全得点に占める割合だが、日本は公式戦56得点中、途中から入った選手が奪ったのはわずか4得点(7・1%)しかない。対戦相手の方は28得点中6得点(21・4%)もある。日本の試合を見ていると交代で入った相手にしてやられる印象があったが、そういう傾向があることは間違いなさそうだ。

 ちなみにW杯南アフリカ大会の全64試合143得点中、途中から入った選手のゴールは15得点で1割(10・5%)を越えている。交代で入って得点を取った日本選手は2011年1月25日韓国戦の細貝萌(ヘルタ・ベルリン)、同年1月29日豪州戦の李忠成(浦和)、同年11月11日タジキスタン戦の前田遼一(磐田)、そして2012年6月8日ヨルダン戦の栗原勇蔵(横浜FM)が最後というのだから、何とも寂しい記録である。


 日本の課題は必ずしも優位に試合を運べない「列強」を向こうに回したときや、相手に先制されたときである。アジアで自分優位の試合運びに慣れているせいか、格上とされる相手と戦ったときも仕掛けが遅い。遅め、というより、後手に回ってしまっている。

 それが顕著に表れたのがコンフェデレーションズ杯のイタリア戦である。この試合、日本は前半21分に本田圭佑(ミラン)のPKで先制、33分に香川真司(マンチェスター・ユナイテッド)の左足ボレーで加点した。願ってもない展開だった(図3参照)。

 しかし、イタリアのチェーザレ・プランデッリ監督の対応も迅速だった。前半30分に早くもアルベルト・アクイラーニ(フィオレンティーナ)を下げてセバスティアン・ジョビンコ(ユベントス)を投入。同41分にダニエレ・デ・ロッシ(ローマ)が反撃の狼煙を上げ、後半5分に内田篤人(シャルケ)のオウンゴールで追いつき、7分にマリオ・バロテッリ(ミラン)が勝ち越しのPKを決めた。逆転に成功するや14分にクリスティアン・マッジョ(ナポリ)をイグナツィオ・アバテ(ミラン)に、23分にエマヌエレ・ジャッケリーニ(サンダーランド)をクラウディオ・マルキージオ(ユベントス)に代えてすべてのカードを使い切り、逃げ切りを図った。

 日本もここから猛反撃。24分に岡崎慎司(マインツ)のゴールで追いつき、その後も次々に惜しいシュートを放ったが、中途半端なクリアを拾われて41分にジョビンコに決勝点を許した。

 この間、日本の交代は28分に内田を酒井宏樹(ハノーファー)に、34分に前田遼一(磐田)をハーフナー・マイク(フィテッセ)に、47分に長谷部誠(ニュルンベルク)を中村憲剛(川崎F)に、というもの。ハーフナーは機能したとは言い難く、中村投入も遅きに失した感は否めない。この時間帯に出されて何かをやれといわれても酷というものだろう。

 2年前のユーロ決勝もそうだったが、プランデッリ監督は追いかける展開になったときにためらいがない。前半を0―2でスペインにリードを許すと後半12分までに3枚のカードをすべて使い切った。3枚目で投入したチアゴ・モッタ(パリSG)が直後に負傷するアクシデントに見舞われ、10人での戦いを余儀なくされてさらに2失点して大敗したが、1発勝負の2点ビハインドともなれば、これくらいのギャンブルに出ても責められないだろう。

 図3はイタリアと日本のシュート数と支配率の推移を示したものである。これを見れば前半は支配率、シュート数ともほぼ互角だったが、後半は完全に日本ペースだったことが分かる。ところがゴール数は後半に限ればイタリアが3点、日本は1点。63・2%という圧倒的な支配率と13本のシュートは必ずしもスコアに結びつかなかった。

 逆に浮き彫りになったのはイタリアの試合巧者ぶりだろう。前半から日本に主導権を握られながら、デ・ロッシのゴールで勢いがついた前半終了間際の残り5分は支配率(68・9%)でもシュート数(6本)でも日本を圧倒している。

 後半の入りはその勢いを持ち越し、7分までに試合をひっくり返すと、そこからは急激にスローダウン。高温多湿のレシフェでイタリアは中2日、日本は中3日の試合だったから日本の猛攻にさらされ、FKから一度は追いつかれたものの、後半41分にジョビンコのゴールで勝ち越した後は再び支配率を56・4%まで急激に回復させて逃げ切りに成功した。前半と後半の開店直後と閉店間際に効率よくモノを売り切る“イタリア商法”のしたたかさ、とでもいおうか。

 おそらく、力が拮抗したブラジルW杯本番も、ラスト15分の試合運びの巧拙が大きく明暗を分けることになる。そこで勝ち点0を1や3に増やせるか、勝ち点1や3を死守できるかどうかでグループリーグの成否が決まってくる。

 逃げ切るにしても、追いついたり勝ち越したりするにしても、大事なのはジョーカーだろう。優勝したアジア杯では主戦の前田が研究され尽くした後に李忠成(浦和)がファイナルでは切り札として機能した。勝ち上がるプロセスではサブ組の伊野波雅彦(磐田)や細貝萌(ヘルタ・ベルリン)が意外性のあるゴールを決めた。ブラジルW杯もベンチ組の充実と活躍なくして日本の進撃はありえないだろう。


ゲキサカ  http://web.gekisaka.jp/

 

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