HOME » 選手新指標開発⑤ 〜3つの守備力がチームに与える影響とは〜
選手新指標開発のコラムも今回が最終回になります。最後は守備の指標を取り上げてみたいと思います。そもそもサッカーにおいて守備はチーム全体で行うものであり、特に、スペースを埋める、など周囲とのバランスによって成り立っているものです。また、サッカーの場合、攻撃と守備を完全に切り離して考えることが難しいスポーツだったりするので、チームの戦術的に守備をある程度放棄して点を取りに行くようなチームもいますし、完全に引いて守ることによって点を取ることを犠牲にするチームもあったりします。
ただ、そうなってしまうとなかなかDFの選手の特徴が目に見えてこなくなってしまうので、Football LABでは、オンザボールにおける選手の守備能力を少しでも可視化できるように、個人の守備能力を評価する指標を3種類ほどピックアップしてみました。今回のコラムではその3指標の紹介と、3指標がチームに与える影響を紹介できればと思います。
<Playing Style指標9:守備力>=守備CBP
〜相手の攻撃(プレー)に対してボールを取り返し、自チームの攻撃につなげたプレー数〜
まず、最初の指標は以前から紹介している守備CBPです。この指標は、簡単に言うと攻撃系のプレーが成功した場合に攻撃している選手に入る「パスCBP」「ドリブルCBP」「クロスCBP」を防いで自分のチームのボールにしたときに、そのプレーを行った選手に入る指標です。詳細の係数設定などは、「チャンスビルディングポイントとは?」で紹介しておりますので、そちらをご確認いただければと思います。この指標の高い選手ほど、相手チームの攻撃を防ぎ、ボールを取り切っている選手と言えますし、攻撃の起点となっている選手という見方もできるでしょう。
上の表は、「守備力」に関する2013年のJ1・J2ランキングトップ20となります。まず、J1の守備力ランキングトップは大宮の菊地光将、2位は仙台の鎌田次郎、3位は柏の近藤直也と堅守速攻型のチームのセンターバックがラインアップされています。また、J2のナンバーワンは、J2で旋風を巻き起こした長崎の山口貴弘です。
<Playing Style指標10:自陣空中戦力>=自陣での空中戦に勝利した数
次は、センターバックやボランチに求められるロングボールへの対処、自陣での空中戦でどれだけ勝てるかを示す「自陣空中戦力」となります。前回のコラムで紹介した、「敵陣空中戦力」の高い相手にどれだけ対抗できる能力があるかを示したものと言ってもいいでしょう。
上の図がそのランキングとなります。J1の「自陣空中戦力」ナンバーワンは新潟の大井健太郎です。堅守新潟の制空権を握っていた選手と言っていいでしょう。2位は「守備力」ナンバーワンの菊地光将(大宮)がここでもランクイン。3位は浦和の那須大亮でした。なお、J2のナンバーワンはここでも長崎の山口貴弘でした。
<Playing
Style指標11:ボール奪取力>
=タックル+インターセプト+ブロック+ミドルサードorアタッキングサードでのこぼれ球奪取力
最後は「ボール奪取力」です。この指標は選手自らが相手にプレッシャーを掛けてボールを奪い取る能力です。能力の高い選手と対峙した場合は、「間合いをとって飛び込まない」カバーが基本セオリーとなります。しかし、守備能力の高い選手は自らがボールを取りに行く「アタック」をしてボールを奪い切るわけで、そういった選手が中盤より前にいるとボールの奪いどころが前の方になるために、チームの守備の戦術ががらっと変わってくると思います。
ですので、守備をスタートする時に前からプレスを掛けたり、体と体でぶつかった時に守備側がしっかりとボールを奪ったり、駆け引きをして相手にボールを蹴らせてブロック・インターセプトしたりする守備アクションをピックアップし、加算したものを「ボール奪取力」としました。
上図が昨季のJ1のランキングとなります。ナンバーワンは新潟のレオシルバです。レオシルバは新潟の守備のボールの取りどころとなっており、タックル数の多さを評価され、先日は5月のJリーグ月間MVPに選ばれております。2位は以前からボール奪取には定評があったF東京の米本拓司、3位は豊富な運動量を武器に戦う鳥栖の金民友です。J2のナンバーワンは松本の玉林陸実でした。
<Playing Styleがチームに与える影響①:失点と関係の深い指標>
今まで守備に関連する3つの指標を紹介してきました。最後にこの指標がチームの特徴にどのような影響を与えるかについて考察していきたいと思います。その上で、まずは2013年におけるJ1クラブの失点と失点との関係が深い指標をピックアップしてまいりたいと思います。
上の図は、J1の失点ランキングと、失点と関係がありそうな指標として「被シュート数(シュートを打たれた数)」「被シュート成功率」「被パス成功率」「被クロス成功率」「被ドリブル成功率」のスコアを表にしたものです。また、失点との関係を分析するために、失点とそれぞれの指標との相関係数を載せております。18サンプルしかないので参考値程度にはなりますが、どちらが影響が大きいかという傾向値を見る上で参考にしていただければと思います。
まず、失点と最も相関関係がある指標は「被シュート成功率」でした。これは当たり前の結果ではありますが、確認の意味も込めて触れさせていただきます。次に高かったのが「被クロス成功率」でした。細かく見ていくと、失点数トップ3の広島、横浜FM、C大阪の3チームは1試合平均失点数が1を切っていますが、被クロス成功率もトップ3となっています。また、失点数5位の甲府と6位の新潟も被クロス成功率が低く、Jリーグの場合「シュートにつながるクロスをいかに上げさせないか」が、失点数を減らす上でのキーファクターなのかもしれません。
なお、被ドリブル成功率、シュート数もそれなりに相関がありますが、クロスほど順位との関係性はないように見えます。ただ、全体の傾向としては、「シュートを打たれない」「有効なドリブルをさせない」のも、失点数を減らす上で大事な要素だと言うことが分かります。
最後に、「被パス成功率」を見ると、相関がないことが分かります。パス自体が成功されていても、危険なプレーをされなければ失点にはつながらないことを数字が示していると思います。「被パス成功率」の最も高い広島が最少失点ということを見ても同様のことが言えると思います。
<Playing Styleがチームに与える影響②>
次の表は2013年のスタメンフィールドプレイヤー10人における1試合平均「自陣空中戦力」「守備力」「ボール奪取力」の合計値と先ほどピックアップした「被シュート数」「被シュート成功率」「被パス成功率」「被クロス成功率」「被ドリブル成功率」との相関を見てみたものです。「被●●」といった指標は低い方がチームにとっては良いスコアになりますので、マイナス相関の高い方が関係があると読み取っていただければと思います。
<「自陣空中戦力」 ➡ 「被クロス成功率」の低下>
まず「自陣空中戦力」チームナンバーワンは横浜FMですが、被クロス成功率も一番低いスコアでした。細かく見ると、センターバックにいる栗原勇蔵、中澤佑二のみならず、ボランチの富澤清太郎も合わせて「自陣空中戦力」が高く、セットプレーやクロスからの失点が少ないチームだと言えそうです。相関係数を見ても、「被クロス成功率」との関係があることが見えてきます。つまり、空中戦に強い選手が多いチームは、クロス成功率が下がりやすいことを示していると言っていいでしょう。また、被シュート数とも関係があるとも言えそうです。
<「守備力」 ➡ 「被シュート数」の低下>
続いて「守備力」ですが、最も関係があるのは「被シュート数」でした。「守備力」の高いチームランキングを見ると、広島、横浜FM、F東京、浦和、新潟の順ですが、「被シュート数」のランキングを見ても、横浜FM、F東京、浦和、広島、柏とある程度上位の顔触れが一致しております。相関係数も「-0.735」と非常に高いです。
この結果から、守備力の高い選手が多いチームはシュートを打たれづらいということが想像できそうです。逆に、DFの選手の「守備力」のスコアを見て、スコアが相対的に低い選手のところから攻撃すると、シュートチャンスが生まれやすいとも言えそうです。今後、プレビューなどで自分のひいきにしているチームの対戦相手の守備力スコアを見て、スカウティングに活用していただければと思います。
<「ボール奪取力」 ➡ 「被ドリブル成功率」「被シュート数」「被パス成功率」の低下>
最後は「ボール奪取力」ですが、このスコアと相関が高いのは「被ドリブル成功率」でした。チームベースでボール奪取力が高いのは新潟、横浜FM、F東京、広島、鳥栖ですが、「被ドリブル成功率」が低いのは、横浜FM、名古屋、鳥栖、広島、浦和とある程度合致しています。積極的にボールを奪取できる選手が多いチームは、ドリブルを主体にプレーする選手の良さを消すことができると言っていいかもしれません。
また、「被パス成功率」も3つの守備の指標の中で「ボール奪取力」と最も相関が高い結果となりました。ボール奪取力の高いチームは相手のポゼッション力低下につながると言ってもいいでしょう。
以上、5回にわたり続けてまいりました「新指標開発プロジェクト」。いかがだったでしょうか?「パスレスポンス力」「ビルドアップ力」「ボール奪取力」といった指標は、今までない形で選手の特徴を表現することができたのではないかと思っております。
現在、2013年のJ1・J2で1000分以上出場した選手において、「PlayingStyle11指標」を表示しております。2013年の成績になりますので、試合を見る上での参考にしていただけるとありがたいです。また、この11指標を活用した形でクラスター分析を実施し、そちらのスコアを使って「PlayingStyleが近い選手」を表示しております。知らない選手がいたときに、どのような選手と近いかを確認することによって、どんな特徴の選手かを判断する指針として活用いただければ幸いです。
ひとまず今回で指標開発の紹介は最後になりますが、今後も新たな指標開発に取り組んでまいりたいと思います。ご意見・ご要望などいただけると非常に参考になりますので、よろしくお願いいたします。
2024-11-06 14:25
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2024-06-13 11:30
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2024-05-08 10:00
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