前編はこちら↓
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MF本田圭佑(CSKA)が語る「新しいトライ」に実は、左利きの日本を両利きにすることも含まれているのではないか。
図2はウルグアイ戦(2-4)とセルビア戦(0-2)の本田のボールタッチエリアを4×6分割で示したものである。赤が最もボールに触った区画、続いてオレンジ色、黄色となるのだが、ウルグアイ戦の本田は「トップ下」の名にふさわしくゴール正面の4区画でボールに触る機会が多かった。
ところがセルビア戦になると“ホットゾーン”は大きく右サイドに偏った。ベラルーシ戦では相手陣内のセンターサークル付近まで“ホットゾーン”は下がっている。これは相手の術中にはまって押し出されたとか押し下げられたのではなく、本田の意志でボールの受け場所を変えたのだろう。その意図するところは一つが右サイドの攻めのテコ入れであり、もう一つが中盤の動きの流動性を高めて自身やFW香川真司(マンチェスター・ユナイテッド)、FW岡崎慎司(マインツ)のマークをはがす動きを助けることだったろう。
その試みは結果的に本田が「チグハグ」と称した停滞を招くことになった。本田が右サイドに重心を移すと、どうしても左サイドは“軽く”なる。日本自慢の左サイドからの崩しに本田のキープ力は大きく貢献してきた。それは本田がサウスポーであることと大きく関係している。左利きの本田が左サイドのタッチラインの方向を向いて半身でボールをキープする時、おのずと左足元にあるボールはマーカーから遠い位置になる。強靱な体を使ってマーカーをブロックしながらキープすればそう簡単にボールは取られない。その時間を利用して香川が中に入ったり、香川が開けたコースをDF長友佑都(インテル)が駆け上がったり、MF遠藤保仁(G大阪)は次の一手を考えたりできた。本田もその状態なら多少押されてもボールをさばけた。
右サイドに移る本田にそのアドバンテージはない。右サイドラインを向いて本田がプレーすると左足は相手マーカーから近い足になり、ボールをさらすことになる。取られまいとして背中を向けるとボールは後ろ方向にしか出なくなる。その違いを頭に入れながら本田が自分をどうやって右サイドでも生かそうとするのか。この試みは注目に値する。
一方、右サイドに重心を移す本田にはフィニッシャーとしての魅力が増すかもしれない。本田抜きで左サイドを崩せれば、が前提となるが、左から入ってくるボールに正対しながら左足で仕留める回数を本田が増やせたら日本の攻撃力は間違いなくアップする。あるいは、岡崎の専売とも思える右サイドからゴール前を急襲するような意表を突く攻撃を本田も仕掛けられるようになったら面白い。
左利きのチームを両利きに補正しようとする本田のポジショニングはチームに何をもたらすのか。本田抜きでも左サイドの破壊力を維持、増進でき、本田が重心を移した時の右サイドの攻撃が今よりも精度を高められたら、来年のW杯に明るい光が差す。
しかし、右サイドのテコ入れがうまくいかず、本来はあった左サイドの攻撃の鋭さまで失ってしまったら、まさに元も子もない危機に直面する。
右サイドの顔ぶれを見ると、前線の選手にくさびを入れるのは上手だけれど、クロスの精度にまだ甘さがあるDF内田篤人(シャルケ)など、本田以外にもそれぞれの選手がそれぞれに課題を抱えている。右サイドのパワーアップもそうは簡単ではないだろう。
さらに、右サイドにシフトするのであれ、深く下がるのであれ、本田の動きのベクトルは言い換えれば“1トップ離れ”を意味する。1トップ(ゴール)に近い位置でプレーする本田がゴールから遠ざかることは守る側からすればシュートの脅威が減じることを意味するのではないか。「怖さ」の点でそこはどうか。東欧遠征で1トップを張ったFW柿谷曜一朗(C大阪)が前線で孤立したのも本田の動きと無関係ではないだろう。
こうした難問をW杯までの7か月の間にどう解いていくのか。オランダ、ベルギーという掛け値なしのトップランクのチームとの戦いは、本田の、ひいては日本の「新しいトライ」にどんなインパクトを与えるのか。目を凝らして見たい。
(第2回は、12月公開予定です)
ゲキサカ
■直近の試合のマッチレポート
13/10/15 ベラルーシvs日本 マッチレポート (各選手のボール奪取・ロスト、ランキングなど)
http://www.football-lab.jp/column/entry/435/
13/10/11 セルビアvs日本 マッチレポート (各選手のボール奪取・ロスト、ランキングなど)
http://www.football-lab.jp/column/entry/434/