ナビスコカップは鹿島の5度目の優勝で幕を閉じ、いよいよJ1も残り4節に各チーム全力を尽くす季節となった。現在優勝争いを演じているのは、ともにリーグタイトル経験のない広島と仙台が55と勝ち点で並んでおり、一騎打ち状態に浦和がからめるかといった展開だろう。それ以上に混戦模様なのはACLで、勝ち点49の3位浦和から10位磐田の43まで勝ち点6差の中に8チームがひしめく大混戦となっており、かなり多くのチームにチャンスがある状態である。
また、残留争いは札幌の史上最速の降格が決まったものの、17位の新潟が31、16位G大阪が33で、14位神戸・15位大宮が36、13位の鹿島も38にとどまっており、数多くのチームがまだまだ予断を許さない状況。最終節まで残りの2枠の行方は見えない展開となっている。
今回のコラムでは、J1クラブの最近10試合の結果から現在の好調チーム・不調チームの要因を考察し、混戦のJ1残り4節を占なってみたい。
【最近10試合で好調のチームは夏に加入した選手が活躍】
上の図は、第21〜30節の10試合に置ける勝ち点、得点、失点を一覧にしたものである。勝ち点が同じ場合は得点の多い順に並べている。
最近10試合で最も勝ち点を上げているのはC大阪・仙台・清水の3チーム。C大阪は序盤から低迷が続き、チームの中心選手だった清武とキムボギョンが海外移籍。19節に降格圏内に入り、8/26にセルジオ・ソアレス監督を解任。8/29にクルピ監督を呼び戻す事態となったが、監督就任後4勝2分1敗と快進撃を続けて現在11位まで順位を上げた。7月下旬に加入した元ブラジル代表シンプリシオの加入も大きいと言える。
仙台も序盤から好調をキープ。J2時代から築いた堅守からのカウンターは今年も健在。被チャンス構築率は9.0%と最も少なく、失点は2番目に少ないのは納得の結果。それに加えて今年は現在12得点で得点ランキング3位につけているウィルソンの加入が大きく、チーム全体の得点ランキング3位で、優勝争いの原動力となっている。最近10試合も複数得点の試合が半分を占め、例年以上に得点力のあるところを見せつけているが、守備にほころびが出始めているのは気になる材料。
清水は11節から19節まで9試合連続で勝ちがなかったが、20節に広島に勝ってから好調をキープ。夏場にレンタル移籍で加入した金の存在は大きく、流動的だった3トップの真ん中に定着しチームバランスが安定。コンビを組んでいる大前のドリブル、高木のクロスと3トップが機能するようになり、大前が12得点、高木が8得点。高木はシュートCBPトップにつけている。
現在残留争いをしている大宮とG大阪も好調の2チームだ。大宮は6月に鈴木監督を解任し、ベルデニック監督が就任。7月にスロベニア代表経験者のズラタンとノヴァコヴィッチが加入後、得点力アップにつながった。特筆すべきは守備面の改善。ここ10試合での失点数6と18チーム中1位で残留争い脱出に向けて上昇気流に乗っている。
名門G大阪は序盤で5試合勝ちなしでセホーン監督を解任。交代した松波監督もなかなか大勢を立て直すことができず、20節終了時点で17位と降格の危機へ。しかし、レアンドロ・家長加入によってチームは上昇気流へ。レアンドロは後半戦だけですでに11得点をマークしており、現在降格圏内脱出を虎視眈々と狙っている。
こうやって好調チームの状況を見ると、ほとんどのチームで新加入選手の活躍が目立つ。特に外国人FWの加入がチームの原動力となっていた。
【好調チームの要因:シュート決定率が上昇】
好調チームと不調チームの要因を探るべく、シュート構築率×シュート決定率のマトリクス分析を行った。
シュート構築率とは、各チームのシュート数を攻撃回数で割ったものであり、どれだけ効率的にシュートシーンを作れているかという指標だ。この指標が高ければ高いほど、攻撃の組立がうまくいっている目安となるだろう。一方、シュート決定率とは、ゴール数をシュート回数で割ったものであり、どれだけ決定力があるかを測る指標となる。また「20節」と表示しているのは、20節終了時点でのスコアを示しており、「最近」と表示しているのは、最近10試合におけるスコアを示している。
この分析により、チームの好調・不調の要因が攻撃の組立がうまくいっているか、あるいはシュート精度が上がっているのかのどちらかを直感的に見ていきたいと思う。
まず、シュート決定率が上昇しているチームは、G大阪、C大阪、鳥栖、大宮、清水の5チーム。G大阪はシュート構築率も上昇しており、得点力No1を裏付ける結果となった。C大阪・大宮・清水は前述の通りだが、鳥栖は、豊田がコンスタントにゴールを決めだし、複数得点が増えている。また10%以下ではあるが、新潟もシュート決定率は上昇しており、結果を出す選手が出てくれば残り4節上昇気流に乗るかもしれない。
【小康状態・不調チームの要因:シュート決定率が下降】
【新監督就任チーム:シュート構築率は維持・上昇も、シュート決定率がキープ】
【残り4試合のスケジュールから優勝・ACL・残留争いを占う】
上記の分析を見ると、G大阪の得点力は目を見張るものがあるが、ほかのチームはこれといって決定打があるわけではなく、今年は本当に上位と下位の大きな差がないことがひとつの特徴なのだろう。決定打となる情報が少ない中、残り4試合の動向をJ2の時と同様に対戦カードの最近10試合の勝ち点合計から占っていきたいと思う。この勝ち点が多ければ多いほど最近好調のチームと対戦するため、苦戦する可能性を示している数字かと思って見ていただけたらと思う。
まず、優勝争いの広島と仙台を見ると、札幌の対戦を残している広島の方が有利というデータとなっている。しかし、浦和との直接対決、残留争いをしている神戸と最終節当たるので決して楽観視は出来ない。一方仙台は新潟を除いて中位のチームとの対戦を多く残しているため、自分たちのサッカーをしっかりできるかにかかっているといえよう。
続いてACL争いだが、神戸・G大阪・大宮といったシビアな降格争いとの戦いを2試合残している清水・柏・FC東京、磐田は若干不利かもしれない。FC東京はプラス仙台との対決を最終節に残しており強敵ぞろいだ。磐田も残り2試合に残留争いチームとの直接対決を残しており、苦しい戦いになることが予想される。一方鳥栖と横浜Mは札幌との戦いを残している上、ACL争いのチームをしっかりたたける環境にあるため、残り試合に勝っていければ、最終節で勝った方がACL昇格といったことも想定されるだろう。浦和と名古屋も最終節に直接対決を残しており、この勝ち点差のまま行けば注目されるカードとなるだろう。
最後に残留争いだが、大宮・G大阪が好調で点を取れる選手がいるだけに、いつも以上にボーダーラインが上がる可能性がある。一方上位との直接対決や大宮との直接対決を残しているC大阪や鹿島は苦しい戦いを強いられ、最終的な残留ラインは41ぐらいになる可能性も考えられる。G大阪は残留争いチームと直接対決がないが3勝すれば逆転残留も十分にありえる。大宮は絶好調ではあるが、残りの対戦相手も好調チームとの戦いになるので、特にC大阪、清水戦は注目の試合になりそうだ。
残り4試合で、優勝争い、ACL争い、降格争いに絡むチームが多いシーズンも珍しい。どのカードも好ゲームが予想されるため、Jリーグ残り4試合全く目が離せない。
text by 木下陽介