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コラムColumns走行距離14kmはなぜ生まれたか?~高橋義希と加藤大のトラッキングデータを検証。

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走行距離14kmはなぜ生まれたか?~高橋義希と加藤大のトラッキングデータを検証
2016-12-27 15:00 RSS

今季もJ1リーグではトラッキングデータを取得し、Jリーグ公式サイトではチーム、選手の走行距離やスプリント数のデータが公開されている。その中から試合別の選手の走行距離に注目したい。下図にまとめたGK以外のフル出場選手の走行距離分布を見ると、最も多い走行距離は10km台。試合の中で最も走った選手の走行距離は12〜13km近辺の数値で、昨季は14kmを超えたケースはなかった。しかし今季は14km超えが6試合あり、4選手が記録。この走行距離はどういった状況から生まれたのか、トップとなった高橋義希(鳥栖)と2位の加藤大(新潟)の該当試合のデータを細かく見てみよう。

彼らが所属する鳥栖と新潟だが、チームの平均走行距離のランキングを見ると、前者は首位、後者は3位とやはり走るチームであることが分かる。特に鳥栖は、昨季の走行距離トップである湘南を上回った。そして、鳥栖と新潟の試合別の走行距離をランキング化すると、高橋、加藤の最高記録となった試合がトップ3に入っており、彼らだけではなくチームとしても走った試合であった。

次の表は、該当試合の走行距離を状況別に分けた数値だ。走行距離は自チームのポゼッション時、相手チームのポゼッション時、アウトプレー時の3つに分けられる。これらのデータはポゼッションの時間にも数値の大小が影響するため、ボール支配率も併せて確認しよう。甲府戦の加藤はどちらの状況もチームトップを記録し、2位と500m以上の差を広げている。この試合の新潟は支配率が6割を超えているため、全体的にポゼッション時の走行距離が上回るが、相手ポゼッション時の走行距離も比較的近い数値を記録しており、守備時にもよく動いている。一方の横浜FM戦の鳥栖は支配率43.4%であったため、相手ポゼッション時の走行距離が上回るが、支配率以上に大きな差が表れており、守備時によく動いている。それを象徴するかのように、この試合の高橋は相手ポゼッション時の走行距離で2位の福田と約1kmの差を付けてチーム内トップとなった。

次の表は、攻守が切り替わったタイミングから5秒間の走行距離の平均値をまとめたものだ。甲府戦の加藤は自チームがボールを奪った際、奪われた際ともにチーム上位の走行距離を記録。4-1-4-1の中央2列目というポジションであることもあり、攻守両面で奔走している。一方で横浜FM戦の高橋は、4-3-1-2のアンカーを担っている影響もあり、チームが高い位置でボールを奪っても走る必要性がなく、敵陣でのボール奪取時はランク外となり、自陣でのボール奪取時も3位となっている。唯一チームトップとなったのは敵陣でのロスト時のみ。攻守が切り替わるタイミングだけを見ると、圧倒的に加藤が走っていることが分かる。

では、なぜ高橋の走行距離は伸びたのか。ダントツの走行距離となった相手ポゼッション時における高橋の仕事ぶりを表したデータを下図にまとめた。

守備時におけるポジションを見ると、高橋と最も重なるエリアでプレーした相手選手は兵藤だった。横浜FMのプレータイミングにおける全選手間距離を計算し、2番目に短い距離となったのがこの兵藤と高橋の距離で9.73m。そして兵藤がボールを持った際、半分以上のシーンにおいて高橋が彼の5m未満まで寄っており、密着マークをするような格好となった。この試合、兵藤は途中交代となったため、試合全体の走行距離としては他の選手に劣るが、交代前である後半20分までの横浜FMポゼッション時における走行距離は、兵藤がトップ。その兵藤をマークしていた高橋の走行距離も自ずと伸びた。

もう一点、最初に紹介した試合別の選手のランキングの表を見ると分かる通り、多くの試合でランクインしている加藤に対し、高橋は2試合のみ。ランキングをトップ20まで伸ばしても、3試合だけである。新潟と鳥栖はチームの走行距離も近く、高橋は今季リーグ戦で32試合にスタメンで出場していることを考えると、もっとランキングに名前があってもおかしくないはず。なぜこのような結果となったのか。

上図は両チームのGK以外のスタメンフル出場選手の走行距離の分布だ。チーム平均の走行距離は近いが、鳥栖の走行距離は10-11kmに密集しているのに対し、新潟は個人差が大きい。加藤とともに野津田がランクインしており、起用ポジションと該当選手に求められた役割によって数値が分かれているようだ。逆に鳥栖は、センターバックの選手でも10km以上の走行距離を記録するなど、全ポジションの平均値が高い。フィッカデンティ監督は試合の中でも守り方を対戦相手や状況によって変える傾向があるため、今回取り上げた高橋のように特殊な役割を求められた場合に走行距離が伸びる結果となった。

両チームの成績を比較すると、新潟は終盤で監督交代となったが、ギリギリで残留。一方の鳥栖は、2ndステージで上位へ進出するなど手ごたえのある後半戦を過ごした。フットボールのスタイルはさまざまあるが、「走る」ことを意識するのであれば、チーム全体の連動性と走る意図を明確にする必要があるのかもしれない。

関連ページ


高橋義希 選手データ
http://www.football-lab.jp/player/400749/

加藤大 選手データ
http://www.football-lab.jp/player/1000105/

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